なぜ判定に違いが生まれた? 相手サポ挑発行為に元主審・家本氏が感じた“違和感”「片方で出ないのはサポーターも困惑する」
【専門家の目|家本政明】J1開幕戦で起こった2つの相手サポ挑発行為に持論を展開
2月17日に開幕したJ1リーグで、鹿島アントラーズFW鈴木優磨と柏レイソルFW細谷真大がそれぞれ行った相手サポーターへ向けた“挑発行為”に賛否が湧き起こっている。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が「綺麗な境界線を引けない」と見解を述べた。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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開幕節の鹿島がアウェーに乗り込んだ京都サンガF.C.戦で2点目を決めてリードした数分後の出来事。鈴木がゴール裏の京都サポーターに向けて手で0-2のジェスチャーを見せる。この行為を目視した谷本涼主審は、反スポーツ的行為で鈴木へイエローカードを提示した。
一方で、ホームにガンバ大阪を迎えた柏。1-2で敗戦目前の後半アディショナルタイムにペナルティーキック(PK)を獲得する。このキッカーを務めた細谷がしっかり決めて劇的同点弾となった。その直後、PK前にブーイングしていたスタンドゴール裏のG大阪サポーターに向かって、細谷が両手を耳に当てるポーズを披露。この行為に対して、小屋幸栄レフェリーから特にお咎めはなかった。
上記2つのシーンで判定に違いが生まれた相手サポーターへの“挑発ジェスチャー”の対応に、SNS上で疑問の声も上がっている。家本氏は「難しい。非常にグレーな話題」と頭を悩ませた。
前提として、JFA(日本サッカー協会)審判委員会ではシーズン開幕前に選手やスタッフによる異議、詰め寄る行為に対し厳正に対処する方針がレフェリー陣に共有されていたと話す家本氏。今回のケースも「同様にお客さんを煽る行為は、競技規則上警告に値する」とルールに則ると処罰の対象であると指摘する。
しかし、一方で「細谷選手の耳に手を当てるようなポーズを行い、海外で警告をもらうシーンは、僕は見たことがない」と世界的に見て珍しくないものだとも感じているという。
そうした背景を踏まえたうえで、2人の判定の違いについて、鈴木の判定を軸に持論を展開した。
「鈴木選手の示した2-0はスコアの事実の表現だったが、相手サポーターへ笑顔でジェスチャーを表した瞬間をレフェリーが確認した。反スポーツ的行為と判断したのだと思う」
家本氏は「Jリーグの品位を下げる行為」という基準の元、鈴木へイエローカード提示に至ったと流れを説明している。
細谷の行為に関しては、主審がジェスチャーを確認できていなかった可能性も挙げつつ、「類似行為として捉えている。一方でカードが出て、片方で出ないのはサポーター・チーム・選手としても困惑する」と疑問を投げかけた。
「この2つの場面に多少の差があることも理解ができるし、基準を統一することもできるが、綺麗な境界線を引くことはすごく難しいと思う。ただ、同じ挑発行為として違う判定が出るのは違和感がある」と個人的な意見を述べている。
解決の糸口は“基準の明確化”だがグレーな分難しい
家本氏はこの問題への対策として、「JFA審判委員会がJリーグの考えや方向性を聞きながら選手やクラブに基準を共有していくことも大切だけど、その前にJリーグがこの辺りをどう考えているのかをもっと明確にして発信していくことが大切だと思う」と主張。「選手やJリーグのブランド価値を高めるよう、グレーなところをどうするのかもう少しわかりやすく示してほしい」と思いを語ったうえで「自チームのサポーターへの行為や言動ならそこまで波風が立たないが、相手(サポーター・選手・クラブ)だと難しさが出てくる。なので相手側には敬意を示し、誤解を生む行為や発言はやめる、対象は自分たちを応援してくれているサポーターに対してだけにする、を徹底するだけでこの問題は解決する」と一案を述べた。
「フットボール以外の話で盛り上がるのはもったいない」とも嘆いた家本氏。Jリーグの価値を高めるためにも、審判委員会やJリーグが選手やクラブ側とすり合わせしていくことが今後必要となっていきそうだ。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。