昌平、光った勝負強さ 左サイド切り裂く“高校生版三笘”の存在 「ベンチから“行くな”という声が…」

昌平高校が前橋育英高校との3回戦へ【写真:徳原隆元】
昌平高校が前橋育英高校との3回戦へ【写真:徳原隆元】

難敵・近江に苦戦も篠田の2得点1アシストもあり勝利

 5度目の出場で初優勝を目指す昌平(埼玉)は、12月31日の2回戦から登場した。対戦した近江(滋賀)の高い技術と強烈なプレス、ダイレクトでパスを回す高度な戦術に大苦戦。しかしチーム随一の勝負強さを誇る左サイドMF篠田翼(3年)が、2得点1アシストと活躍し、持久戦をものにした。

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 埼玉県予選や初優勝したプリンスリーグ関東1部では、ほとんどの試合で主導権を握り、ボールを握って圧倒的な保有力の高さを示し、対戦相手を追い込んだ。

 しかし近江には前半のシュート数で4対4、決定的な一撃も2本ずつだが、ボール支配率ではいくらか劣っていた印象だ。前半の昌平の先制機は、FC東京への来季加入が内定している右サイドMF荒井悠汰が同20分に放った一打、同29分に篠田がGKの好守に阻まれたシュートだけだ。だが、篠田は左45度から放ったこのシュートのいいイメージを忘れず、それが試合を決定づける3点目につながったのだ。

 藤島崇之監督からゴールを奪うミッションを託された。後半15分だった。荒井の蹴った右コーナーキック(CK)が近江DFにクリアされたが、こぼれ球への出足で相手に先んじた篠田は、右足で持ってから敵を切り返しでかわして豪快な左足シュートを蹴り込んだ。「セットプレーのこぼれ球に反応するのは練習からやってきました」と普段通りのプレーを大舞台でも発揮して笑みがこぼれた。指揮官は「本当に精神力の強い選手。1年生でも選手権で得点しましたが、年々成長しています」と信頼を寄せる。

 途中出場のFW伊藤風河のゴールで2-1にしていた後半アディショナルタイムには、敵の攻撃をしのいでカウンターに転じた。伊藤が左サイドの篠田へ長い斜めのパスを配給すると、得意のドリブルでランニング。相手のマークを切り返しでかわし、左45度付近から左足で逆サイドに突き刺した。

「ベンチから“行くな”という声が聞こえたんですが……」。1点差だけにベンチは逆襲を浴びるのが怖かったのだろう。だが、豪胆に運んで出色の得点をものにしたのだから、藤島監督が強い精神力と褒めるのもうなずける。

 右利きだが、左を使う練習も重ねて成果を得た。もう1つある。先のワールドカップ・カタール大会で活躍した日本代表MF三笘薫のプレーを参考にしたのだ。来季、鹿島アントラーズに加入予定のDF津久井佳祐らを相手に、切り返してマークをはがす練習を大会前に何度もこなしていた。

「三笘さんとはポジションが同じで、右足で持ってから切り返して相手の逆を突くプレーを参考にしました。ワールドカップを見てお手本にしようと思い、練習で試してみたら何度か上手くいったんです」とハキハキ答えた。

 2年前の第99回全国選手権では1年生で途中出場し、高川学園(山口)との1回戦では0-2から、後半39分に反撃の狼煙を上げるゴールを奪った。後半アディショナルタイムには兄の大輝(現・日本体育大1年)が同点弾を挙げ、ペナルティーキック(PK)戦に持ち込んで勝利した。

 ベスト4入りした今夏の全国高校総体(インターハイ)では、4点を挙げて3人で得点王を分け合ったが、篠田は「準決勝で負けたのも悔しいし、単独の得点王を逃したことも同じくらい悔しかった。全国選手権では得点王を狙いたい」と話していたが、初戦での2ゴールはさぞかし気分が良かったことだろう。

 しかし個人タイトルの目標を口にしながらも、やはり一番欲しいのは初の高校日本一だ。「相手がどこでも1戦1戦大切に臨んで勝っていき、昌平の歴史を変えたい」と意気込みを示した。

 来春は関東の名門大学へ進学予定の頼れる背番号11は、前橋育英(群馬)との優勝候補同士の決戦に向け、「点を意識せずにいつも通りのプレーをしたい」と結んだ。

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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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