【W杯】やはりブラジルがいないと始まらない ピッチに現れた“カナリア軍団”で一際輝く“背番号10番”
【カメラマンの目】ブラジルのエースFWネイマール、ファインダー越しに感じた凄さとは?
サッカーは選手、スタッフ、レフェリー、記者・解説者、フォトグラファーなど、それぞれの立場から見える世界がある。22歳の時からブラジルサッカーを取材し、日本国内、海外で撮影を続ける日本人フォトグラファーの徳原隆元氏が、カタール・ワールドカップ(W杯)を現地で取材。ファインダー越しから見えたブラジル代表のエースの姿を独自の視点からお届けする。
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大会5日目にしてついに南米の雄が登場した。やはり“ブラジルが来る”とスタジアムは盛り上がる。試合前のルサイル・スタジアム周辺はこれまで見たどこの会場よりも熱気をはらんでいた。そのスタジアムを包むラテンの熱波を巻き起こしているのは、カナリア色のユニフォームに身を包んだサポーターたちだ。そして、彼らの熱狂は先発のメンバー発表で背番号10番の男がコールされたとき頂点に達する。
ネイマールにはダークヒーローの雰囲気が漂う。ただのヒーローではない。野性味を感じさせる精悍な顔立ち。敵を作ることも厭わず、奔放な振る舞いをされてもどこか憎めない男。そしてピッチで表現するサッカーは他者を圧倒するスーパーテクニシャンのそれだ。
そのネイマールを中心とするブラジルは大型選手が揃うセルビアを翻弄し、圧倒した。いまさら説明するまでもないがブラジルの強さは選手個々の高い個人技に、監督のチッチが標榜する高度なチーム戦術の融合にある。
かつてのブラジルはワールドカップの舞台でメンバーが揃っているときほど苦い経験をすることがあった。それは相手の戦い方に構わず、ひたすら自分たちの攻撃的なスタイルを貫き通していたからだ。ある意味、敵を軽視していた。
ただ、近年になってそうしたブラジルの戦い方は過去のものとなっている。サンパウロ州やリオ・デ・ジャネイロ州のテクニックを駆使したサッカーとは異なり、パワーサッカーが根付く南部の地で監督として名前を売ったチッチが標榜するスタイルは、かつての攻撃に重きを置いた、相手の牙城を力づくで攻め落とすスタイルからシフトチェンジを遂げている。
選手たちは高い守備意識を持ち、それを実行する技術とスタミナを有し、攻撃に転じれば伝統の華麗でスピードのあるサッカーでゴールを奪う。今のブラジルを言葉で表すなら華麗なサッカーの表現者というよりも、高い技術に裏打ちされた正確な基本プレーを根幹に、極限のスピードを追求する集合体と言った方が正しいのかもしれない。
ピッチレベルに位置するカメラマンの目線からブラジルを見ると、そうした技術的な部分だけでなく、ボールのないところでの駆け引きからも、その強さの一端を知ることができる。
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。