「人間ブルドーザー」鄭大世の引退に寄せて 「自己肯定感の低さ」に悩んだゆえのエゴイストな姿

自己肯定感の低さが「自己中心的」と誤解されることも…

 その「自己肯定感の低さ」がもたらす、安心できるポジションを求める気持ちの強さは、「自己中心的」とも誤解された。もっとも、そのエゴイストぶりはストライカーとして求められる気質の1つでもあったため、彼がなぜそういう状態に陥っているのか、周りが理解するまでには時間が必要だった。

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 そして、エネルギーを発散したあとに彼を待っていたのは「後悔」だった。自分がよかれと思って行ったことも、相手が本当の意味を理解してくれるまでには時間がかかる。また彼のやり方も強引だった時もあり、必要以上の軋轢も生んだ。

 一度は強気でやり過ごすが、そのあとに待っていたのは自己否定だった。明るく振る舞っていても、2人きりで話しているとそんな悔恨の念が心を押しつぶしているのが分かった。心配して衝突した相手に話を聞きに行くと、もう解決しているという。だが大世はずっと気にしていた。

 プロサッカー選手という、先発の11人とサブの6人、そしてベンチ外の多くの選手というヒエラルキーが付きやすい職業だったからこそ、余計にそんな問題が起きたのかもしれない。

 どうかそんな彼の一面も分かって、「鄭大世選手 現役引退のお知らせ」のリリースを読んでほしいと思う。彼はエゴイストだったかもしれないが、そうなる必然性はあった。それよりも、彼の愛される一面のほうが彼の本質に近いと思う。今後「自己肯定感の低さ」から解放された大世は、さらに飛躍を遂げるはずだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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