目を奪われた水沼宏太の「笑顔」 “遅咲き”の32歳MFがファインダー越しに輝いて映った訳

代表デビューを飾った水沼宏太【写真:徳原隆元】
代表デビューを飾った水沼宏太【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】巨大フラッグの中に個人名が書かれていたものは水沼宏太ただ1人

 サッカーは選手、スタッフ、レフェリー、記者・解説者、フォトグラファーなど、それぞれの立場から見える世界がある。22歳の時からブラジルサッカーを取材し、日本国内、海外で撮影を続ける日本人フォトグラファーの徳原隆元氏が、日本対香港の一戦を現地取材。カメラマンの目に映った独自の光景をお届けする。

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 東アジアの覇者を賭けて戦うE-1選手権。2013年大会以来の優勝を目指す日本は7月19日、カシマサッカースタジアムで香港を相手に初戦を迎えた。

 試合へと臨むサムライブルーたちはいつものように円陣を組み、互いにハイタッチで健闘を誓い合うと、自分の主戦場となるポジションへと散って行った。

 そこでカメラのファインダー内に1人の選手を捉える。右サイドのポジションへと向かう背番号18は、自らを鼓舞するように拳で胸を叩いて見せた。初の代表のピッチに立った彼は静かな気迫に包まれていた。

 ゴール裏のスタンドに目を移せば6つの巨大フラッグが翻る。そのフラッグに書かれた文字の中で個人名が書かれていたのものはただ1つ。試合前に気合いを入れる姿を見せた彼の名前がそれだ。関東圏の試合ということで、横浜F・マリノスのサポーターがスタジアムに駆け付けていたのだろう。

 声出し応援が可能となったサポーターからのコールを受け、32歳にして代表の舞台へと辿り着いたその選手の名前は水沼宏太だ。そして、プレーする舞台がクラブから代表へと変わっても、彼のスタイルに変化はなかった。

 今シーズンの水沼は、リーグで首位を走る横浜FMのレギュラー選手として躍動する姿をサポーターの胸に刻んでいる。そうしたクラブでの活躍が認められた結果、代表招集となったわけだが、2020年に古巣の横浜FMに復帰を果たしてからの彼は、決して順風満帆と言える状況ではなかった。昨年まではベンチスタートとなることが多く、限られた時間でのプレーを余儀なくされていた。

 自らの存在を存分にアピールできない状況にあって、もともと、確かな基本技術を持った水沼はプレースタイルに1つの答えを出したように思う。テクニックを駆使したプレーで強烈な光彩を放つのではなく、ミスの少ない安定感のあるプレーでチームの勝利に貢献していくという答えを。そうした姿は無理がなく実に自然体に見え、彼のプレーが勝利において効果的な役割を果たすことを改めて示すことになるのだった。

徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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