“3枚の絵”に見る風間八宏氏の指導理論 「止める・蹴る」以上のインパクトに膨らむ期待
【識者コラム】風間氏の指導理論から「外す」を3つの場面に分解
風間八宏さんの指導理論として「止める・蹴る」がよく知られているが、どちらも「外す」のためにあると言っていいだろう。相手のマークを外してパスを受けてシュートして決める。ここまでやらないと点は入らないわけで、得点しなければ試合には勝てないからだ。
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「外す」にもいろいろあるけれども、要はパスを受けた選手とゴールの間にGKしかいない状態を作ればいいのだと思う。クロスボールからのシュート、中央突破からのシュートのどちらもDFの妨害を受けない形でパスを受けられれば得点の確率は高くなる。
分かりやすいのがプル・アウェイの形だ。カウンターアタックのチャンス、ドリブルしていく選手の前方にFWとDFがいる。FWはDFの背後を突くような素振りをしておいて、逆方向へ少し膨らむように動く。DFは最初のFWの動きに釣られるので、FWが離れる動きに切り替えた瞬間には動きのベクトルが合っていない。そこへFWの足下へパスが入れば、FWの前方を遮るDFはいなくなる。逆を取られたDFが体勢を立て直して寄せてくる前にシュート――というのが、はなはだざっくりしているが「外す」の典型的なイメージになるだろうか。
ところが、これだけで「外す」を解釈してしまうと大きな落とし穴に嵌ると思う。
例に挙げた「外す」を、パスの出し手から見た3つの場面に分解してみる。1枚目はFWとDFが同じ方向へ動いている「絵」。2枚目はプル・アウェイでFWがDFとベクトルをずらした瞬間。そして3枚目は瞬間的だがフリーになっていて前方が開けているFWと、体勢を立て直してFWへ寄せようとしているDFの絵柄になる。
FWがDFのマークを「外している」のは3枚目の絵だ。ところが、これを確認してからパスを出すのでは明らかに遅いのだ。この3枚目の時にはFWの足下にボールがなければいけない。相手を外した段階でパスを出しても、ボールがFWに到達する頃にはDFも体勢を立て直して寄せてきている。パスの距離によるけれども、これではヨーイドンの競走に近くなり、確実に優位性を出せるのはキリアン・ムバッペやアーリング・ブラウト・ハーランドなど特別に速いFWぐらいだろう。
2枚目でもたぶん少し遅い。FWがDFを外しかけている段階で出し手がボールをリリースしていれば遅くはないが、そうするためには1枚目でパスを出す判断をしていなければならない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。