“清水愛”を全面に出し残留ミッションに挑む平岡新監督 サポーターの後押しがあれば…

一体感と犠牲心を求めた試合、気持ちは伝わる良い試合だった

 試合はすでに5季目となる来シーズンも指揮することが決まっているミハイロ・ペトロヴィッチ監督率いる札幌がピッチの幅を広く使い鍛錬された戦術で主導権を握ったが、前半17分にユース時代から新監督の指導を受け、「ロティーナ前監督、そして平岡さんのためにも」と想いのこもった西澤のフリーキック(FK)をゴール前でDF片山瑛一が身体を張り、そのこぼれ球をチーム内得点王のFWチアゴ・サンタナが押し込んで清水が先制。その後、前半のうちに同点に追い付かれ、後半の立ち上がり4分には課題のセットプレーから失点し逆転された。これまでの清水はリードを許せば圧倒的な確率で敗戦していたが、この試合は違った。後半22分に西澤に代わって入っていたMF滝裕太が同38分にDF原輝綺のクロスに合わせて今シーズンの初ゴールとなる同点弾を叩き込み、ゴール後にベンチにいる平岡新監督のもとへ走り寄り抱擁を交わした。

 滝は清水ユースから昇格した4年目。昨シーズンは武者修行で夏にJ3カターレ富山に期限付き移籍をしていたが、U-20日本代表にも選出されるほどの逸材でもあった。ただ、清水ではその才能を発揮することができずにリーグ戦の出場はここまでの4年間で22試合の2得点。プロ3得点目のなるこの試合の同点弾が残留争いのなかでもがくクラブと恩師である平岡新監督の窮地を救った。試合後に「ホントに昔から一番自分のことを気に掛けてくれていて、富山に移籍した時もずっとLINEをしてくれていましたし、自分のことを常に考えてくれる監督」とその信頼関係は揺るぎない。2021シーズンも佳境を迎えるが、ユース育ちの生え抜きが秘めた才能を爆発させてチームを残留へ導くのか楽しみである。

 試合は2-2の同点のまま引き分けとなり、清水は連敗を3で止め、貴重な勝ち点1を掴むこととなったが、内容的には札幌に比べて選手の距離感、パススピード、攻守においての連係など課題は多い。それでも、新指揮官が求めるサッカーを表現しようと選手たちはこれまでとの違いを見せてくれた。先発起用の期待に応えようと西澤はこれまでならばリスクを冒すことは避け、バックパスを選択し仕掛ける回数が少なかったが、この試合では何度も対峙する相手選手にチャレンジしていた。竹内も声を出しチームを鼓舞し、いつも以上に縦に入れるバスを狙っていた。デュエルで負けることもパスをカットされ相手にボールを奪われることも多かったが、指揮官の「前へ、前へ」というベンチからの声に必死に応えていた。一体感と犠牲心を求めた試合で勝ち点3は得ることはできなかったが、その気持ちは伝わる良い試合だったと思っている。

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下舘浩久

しもだて・ひろひさ/1964年、静岡市(旧清水市)生まれ。地元一般企業に就職、総務人事部門で勤務後、ウエブサイト「Sの極み」(清水エスパルス応援メディア)創設者の大場健司氏の急逝に伴い、2010年にフリーランスに転身。サイトを引き継ぎ、クラブに密着して選手の生の声を届けている。

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