37歳元Jリーガーの“監督人生” 指導現場で実感、ライセンス制度の在り方へ思うこと

現行のライセンス制度へ提言 「現役時代にトップレベルだった人材が…」

「この先、現役引退をする選手たちの中には、僕のようにC級しか持っていないとか、ライセンスを持っていなくても、指導者として素晴らしい能力を持っている人がいると思うんです。

 例えば、中村憲剛さんは昨シーズン限りで現役を退かれましたけど、長年、日本サッカー界を代表されてきた優秀な人材がもっと早くどこかのクラブで監督をする姿を見てみたいですし、期待もできるじゃないですか。すごいチームを作りそうだなって。そういう人たちでもS級ライセンスの取得までに3、4年かかるのはもったいない。

 僕は現役を引退して1年半ぐらい経ちましたけど、すでに選手時代の感覚を忘れかけているんです。選手はどんな気持ちで監督の話を聞いていたかな、どういう風に思ってたかな、なんて記憶はどんどん薄れていく。現役時代にトップレベルだった人材が、トップに近い場所で指導を始められるほうが断然良い。

 僕の場合、引退してすぐに元Jリーガーも集うようなクラブで指揮しているので、選手たちの気持ちを汲み取りやすいという意味でも、やりやすさを感じています。ここで結果を出せば、もしかしたらライセンス制度の在り方へ影響を与えるかもしれない。そういう“使命”を勝手に背負ってやっているところもあります(笑)。C級でもチームを任されて良い結果を出せるということを証明できれば、ちょっとずつでも変わっていってくれるんじゃないかなと」

 もちろん、監督として小川が成長しなければいけない部分は多い。今はまだ自分ですべてをオーガナイズすることしかできず、コーチと連動して全体を統率するまでには至っていない。「もっと他のコーチやスタッフを巻き込めれば、自分が手の届いていないところまでちゃんとケアできると思うんです」。試行錯誤もまだまだ続き、その中で結果を求めていく作業は悩ましい。だが、小川はすべてをひっくるめて笑顔で語る。

「現在、ティアモ枚方はライセンスを満たしていないのですぐにはJリーグに昇格することが出来ません。ただ、チームが勝ち続けることによって『スタジアムを建設しよう』とか『枚方にこんな面白いチームがあるんだから協力しよう』みたいなに色々と動いてくれる方が出てきてくれると思います。

 特にスタジアムに関してはクラブ単体だけでは難しい部分もあるので、色々な人にティアモ枚方を知っていただけるようにピッチで結果を出していければと考えています。周囲から認められる存在になって、将来的にJリーグライセンスの交付、昇格という夢が叶えられるように、チーム一丸となって戦っていきたいですね。

 そうしたチームの目標に加えて、Jリーグでタイトルを獲るという僕個人の野望にもチャレンジしたい。ただ、そのためには必要とされなければいけない。『来てくれ』とオファーをもらえるぐらいまでに自分自身も成長しなければいけません。難しいけど、チームを勝たせながら選手を成長させる。若い選手もいるので、育成もしながら、いつかJリーグで指揮を執れるようになりたいです」

 現時点ではそれは少なくとも数年後のことになるが、小川はさらなるレベルアップを果たすことだろう。選手時代と同様の貪欲さで多くを吸収し、チャレンジし、自分の力に変えていく。指導者・小川佳純のキャリアは、まだまだ始まったばかりなのである。(文中敬称略)

[プロフィール]
小川佳純/1984年8月25日生まれ、東京都出身。高校サッカーの名門・市立船橋高から明治大へ進み、2007年に名古屋グランパスへ加入。プロ2年目のシーズンでレギュラーへ定着し、その年の新人王とベストイレブンを獲得した。翌年から背番号10を背負うと、プロ4年目でJ1リーグ制覇(2010年)を経験。17年以降はサガン鳥栖、アルビレックス新潟と渡り歩き、20年1月に現役引退とFCティアモ枚方の監督就任を発表した。

(今井雄一朗 / Yuichiro Imai)



今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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