日本サッカーの進歩は早いのか、遅いのか W杯予選初陣の敗戦は「知識」以前の問題

オマーン代表に敗れ、黒星スタートとなった日本代表【写真:Getty Images】
オマーン代表に敗れ、黒星スタートとなった日本代表【写真:Getty Images】

【識者コラム】東京五輪で実感したスペインと日本の「差」と「進歩の早さ」

 東京五輪の時に、田中碧のU-24スペイン代表との差についてのコメントが秀逸だと話題になっていた。

「デュエルだの戦うだのを、彼らは通り過ぎている。彼らはサッカーを知っているけど、僕らは1対1をし続けている。そこが大きな差」

 確かに、もうつけ加えることが何もないぐらい的確なコメントだと思う。あえて違う表現をすれば、スペインと日本の差とは「知識」の差だ。メモリーの違い。こういう時は周囲のポジションはこう、相手はこう。で、選択肢はこれとこれとこれ。それぐらいまで知識として入っていて、その時点では特に考えていない。答えは状況が教えてくれる。

 もちろん、それ以上の回答をひねり出す選手もいるわけだが、だいたい暗記している正解を答案用紙に書くようなプレーぶりだった。日本はスペイン風ではあるけれども、さすがに本家と比べれば、いちいち考えているシーンがずっと多いし、それを「創造性」として尊重してきた経緯もあるわけだ。

 ただ、差は「知識」であり「ロジック」にすぎないので、10年ぐらい本気で育成からやれば十分追いつけると思う。才能の差ではないからだ。才能を埋めるのは容易ではない、というか、ほぼ埋まらない。しかし幸運にも、スペインと日本に大きな才能の差はなかった。受けてきた教育の違いからくる差なので、事態は深刻ではない(深刻にとればそうかもしれない)。

 ボールコントロールやフィジカル、あるいはインスピレーションの部分で「そんなに差がない」などと言う日が来るとは、かつては想像さえしていなかったから、日本サッカーの進歩は早かったという感慨さえあるぐらいだ。フィールドで対戦した選手からすれば「大きな差」だけれども、長い目で見ればけっこう先は見えている感じ。少なくとも、何をどうすればいいのか見当もつかないというわけではない。本当にやるかどうかはともかくとして。

 うん、日本サッカーの未来はけっこう明るいぞと思っていたら、オマーンに負けてしまった。ワールドカップ最終予選の初戦負けは前回のUAE戦もそうだったが、オマーンに負けると思っていた人は少なかっただろう。

 この試合に関してはコンディション不良に尽きる。サッカーはどんなゲームでも「精度」と「強度」で趨勢は決まる。オマーン戦の日本代表は精度も強度も足りず、特に強度不足だった。田中のコメントにある「デュエルだの戦うだの」が足りなかった。「サッカーを知っている」かどうか以前の話である。

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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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