フランスはなぜ敗れたか 脳裏に浮かぶ「オシムの金言」…大きかった“バランサー”不在
【識者コラム】優勝候補筆頭がEURO16強で敗退、埋まらなかったマテュイディの穴
欧州選手権(EURO)の優勝候補筆頭のはずだったフランスが、ベスト16で姿を消した。なぜ、フランスは敗れたのか。
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試合は波乱の連続だった。スイスはハリス・セフェロビッチが先制。その後、フランスのキリアン・ムバッペが引っかけられてPKかと思ったら、それ以前に遡ってVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)となりスイスのPKに。しかしこれをGKウーゴ・ロリスがストップする。流れは変わり、カリム・ベンゼマの2ゴール、ポール・ポグバの追加点で3-1とひっくり返したフランス。普通ならこれで試合は終わりだ。ところが、ここで引き締まるはずの守備が、なぜかユルユル。無闇に引きすぎて2失点。3-3のまま突入したPK戦でムバッペが外して敗退となっている。
守備の緩さは終始気になった。アドリアン・ラビオとポグバはそれで口論になっていたようで、代理人でもあるラビオの母親とポグバの家族がスタンドで口論、さらにムバッペへ飛び火。いつぞやの内紛再びと報道は飛びついているが、まあそこが本質ではない。揉めているのは結果であって、原因ではないからだ。
端的に言えば、敗因はブレーズ・マテュイディの不在だと思う。
2018年ワールドカップ(W杯)と今大会の違いは、マテュイディの有無だ。4-2-3-1の左サイドで、反対側のムバッペとのバランスを取っていたマテュイディがいなくなった。そこでディディエ・デシャン監督はバランスの再構築を図ったが、ことごとく上手くいかなかったという印象なのだ。
初戦のドイツ戦(1-0)はアントワーヌ・グリーズマン、ベンゼマ、ムバッペの3トップ。MFはポグバ、エンゴロ・カンテ、ラビオの3人だった。センターバック(CB)がロシアW杯時のサミュエル・ウムティティからプレスネル・キンペンベに代わっているが、マイナスにはなっていない。センターフォワード(CF)がオリビエ・ジルーからベンゼマになったのはむしろプラスである。変化はマテュイディ→ラビオだった。ただフォーメーションが違うので単純な比較はできず、ラビオのプレーぶりも悪くはない。
問題はグリーズマンをどう使い、ムバッペをどう生かすか。その決め手となっていたマテュイディはもういない。グリーズマン、ムバッペの両ウイングは、どちらにとっても中途半端になっていた。そこでデシャン監督の次の打ち手は、コランタン・トリッソの右サイドになった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。