「日本には日本の良さがある」 元J外国人監督が断言「フェアな文化を守ったまま…」

かつてJリーグの清水を率いたゼムノビッチ氏が初めて高校のサッカー部監督となった【写真:相生学院高校サッカー部】
かつてJリーグの清水を率いたゼムノビッチ氏が初めて高校のサッカー部監督となった【写真:相生学院高校サッカー部】

「フェアな文化を守ったままでも、日本らしい戦い方はできる」

 ただしゼムノビッチ氏は、日本が必ずしも欧州や南米など歴史のある国々をなぞるべきだとは考えていない。

「日本には日本の良さがある。日本のチームが使用した後のロッカールームは試合前より綺麗になっている。欧州ではペットボトルなどのゴミが散乱しています。物事は時間通りに進むし、スタジアムでは子どもを抱っこしたお母さんでも安心して観戦できる。サッカー以外にお金を稼ぐ方法もたくさんあるし、生きるためになんでもやる国とは違います」

 Jリーグが創設された頃、主に南米から来た監督や選手たちが「日本にはマリーシア(狡賢さ)が足りない」と指摘した。

「清水時代にゼロックススーパーカップに臨み、試合前の監督ミーティングでは『テレビ中継もあるし、両チームともにフェアプレーでお願いします』と通達されました。でも鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督は『我々は自分たちのスタイルでやります』と言い切っていた。ピッチを離れればアミーゴ(友だち)でも、いざ試合になれば勝つためになんでもやる。それが彼らの流儀です」

 ゼムノビッチ氏は、むしろマリーシアは日本の文化に馴染まないと考える。

「サッカーは相手を騙す競技です。でも柔道だって、右へ仕掛けると見せかけて左へ倒す。騙すという言葉はイメージが悪いかもしれないけれど、日本人だって駆け引きならできる。フェアな文化を守ったままでも、日本らしい戦い方はできると思います」

 日本は日本らしく――。そこはかつてともに仕事をした元日本代表監督のイビチャ・オシムと共通している。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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