今季Jリーグで輝いた“国産ドリブラー” 組織力重視の日本サッカーで異彩放つ稀有な才能

横浜FCFW斉藤光毅(左)、川崎MF三笘薫(中央)、セレッソMF坂元達裕(右)【写真:小林 靖 & 高橋 学 & 佐藤彰洋】
横浜FCFW斉藤光毅(左)、川崎MF三笘薫(中央)、セレッソMF坂元達裕(右)【写真:小林 靖 & 高橋 学 & 佐藤彰洋】

【識者コラム】三笘は川崎でMVP級の活躍、C大阪の坂元も圧倒的な存在感を放った

 川崎フロンターレの総合力が際立った今シーズンのJ1リーグだが、そのなかでも違いを創出したのが三笘薫だった。

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 優勝を決めたガンバ大阪戦では家長昭博がハットトリックを達成したが、そのうち2ゴールは三笘が運び込みお膳立てをしている。またその1週間前の横浜F・マリノス戦では、自陣ペナルティーエリア内で味方のクリアボールを胸でトラップすると、そこから反転。ドリブルをしながらマークする渡辺皓太を振り切り70メートルを疾走。最後はチアゴ・マルチンスの股を抜いて、小林悠のダメ押しゴールを導いた。

 川崎の鬼木達監督は、基本的に三笘を試合を決める切り札として使ってきた。前半で消耗した相手チームがスペースを空けてくると、三笘は楽々とペナルティーエリアに侵入。一度マークするDFの足を止めてしまえば、ほぼ確実に狭いエリアを突破できるし、反面相手もその突破を警戒するからフリーの味方へのラストパスも通し易くなる。

 三笘が右足でボールを持てば、同じモーションで仕掛けもアウトサイドのパスも使い分けられるので、対戦相手は止めようがなかった。今シーズンは、ここまでスタメンが8試合で途中出場が18試合なので、プレー時間の少なさがネックになるかもしれないが、明らかにMVP級の働きをした。

 一方、前線に明確なターゲットが不在だったセレッソ大阪で、ここまで30試合中29試合でスタメン出場し、右サイドで圧倒的な存在感を放ったのが坂元達裕だった。レフティーの坂元は、仕掛けては切り返す繰り返しなので当然相手も分かっているのに置き去りにされてしまう。往年のルイス・フィーゴを彷彿とさせるドリブラーだ。坂元が時にはタメを作り、時には決定的な仕事をすることでC大阪も粘り強く勝ち点を重ねることができた。

 また名古屋グランパスも仕掛けの鋭さには光るものがありながら、なかなか今まで在籍したクラブでは開花し切れなかった前田直輝やマテウスに全幅の信頼を寄せ、強力な武器に変えた。それはFC東京がディエゴ・オリヴェイラ、レアンドロ、アダイウトンの長所を認め、真価を発揮させているのと状況が似ている。

 また昇格組ながら善戦が目立った横浜FCでも、松尾佑介のスピード豊かな突破力と、斉藤光毅の独創性のある仕掛けが不可欠だった。逆に昨年優勝した横浜FMは、仲川輝人が故障がちでフル稼働できなかった影響もあり、早々と上位戦線から脱落した。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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