東京Vに息づく“天才の系譜”とは対照的 “特効薬”遠藤が存在感、磐田はどこへ向かうのか

遠藤は磐田で“特効薬”のような存在となっている【写真:小林 靖】
遠藤は磐田で“特効薬”のような存在となっている【写真:小林 靖】

【識者コラム】森田のワンプレーに見えた東京Vの伝統と、気がかりな磐田の方向性

 東京ヴェルディの小柄で華奢な14番が、自陣に下がり左タッチライン際でボールを受けた。ゆったりといかにも無防備にボールをさらすのを見て、確実に摘み取れると判断し遠藤保仁をはじめジュビロ磐田の3人の選手たちが立て続けに襲いかかる。

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 ところが14番の森田晃樹は、そんな状況を平然と受け止め、ほとんど視線さえ落とすことなく3人の足を巧みに避けて狭い局面を打開していく。東京Vの窮地がチャンスへと切り替わった瞬間だった。

 菊原志郎氏がクラブを去って、もう四半世紀が経過しようとしている。前身の読売クラブ時代に史上最年少の16歳7カ月でトップリーグへのデビューを飾った「天才」だった。つまり今、ピッチに立っている選手たちは、おそらく菊原氏のプレーを見たことはないはずだ。だが森田を見ていると、まるで菊原がピッチに戻って来たかのような錯覚さえ覚える。ターンやボールを持つ姿勢はもちろん、シルエットや走る姿勢も含めてコピーのようだ。

 そして同じ雰囲気は、井上潮音も醸し出している。往年の菊原氏は「相手の腰を見れば重心の傾きが分かり」抜いていけたというが、森田や井上を見ればクラブが一貫して何を大切にしてきたかが窺える。

 この夜の磐田戦も、ベンチ入り18人中8人がユースからの生え抜き。代謝が活発なことで新戦力が途切れることなくチャンスを掴み、スタメン定着の藤田譲瑠チマを筆頭に山本理仁、石浦大雅と3人の18歳がプレー。トップチームの低迷を思えば、素材の獲得競争でも近隣の川崎フロンターレ、FC東京、横浜F・マリノスらを相手に苦戦を強いられているはずだが、育成型クラブのブランディングは成立しており、東京Vの試合には“新商品”発掘の楽しみがある。

 それに対して気がかりなのが、かつてJリーグで一時代を築いた磐田の方向性だ。

 ガンバ大阪から遠藤を期限付き移籍で獲得して4試合目。遠藤の加入後は無敗を続けており、遠藤を起点にほとんどの攻撃が動き出していく。「縦のコースを切っているはずなのに、どうしてFWにボールが渡っているの?」と東京Vの藤田が驚くテクニックは、今さら事挙げするまでもない。

 確かにスター選手の獲得はチーム活性化の特効薬という見方もできる。思い出すのは、イタリアでセリエBの常連だったブレシアが2000年にロベルト・バッジョを獲得。以後、彼が在籍した4シーズンは、自身が95試合45ゴールという晩年とは思えない大活躍を見せ、セリエAでも十分な存在感を示した。ただしバッジョが引退すると、翌シーズンにはセリエBに降格し、現在はエレベーター的なチームに甘んじている。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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