W杯“拡大路線”と「密」状態へのリスク 26年大会から48カ国へ…コロナ禍が鳴らす警鐘

ワールドカップ大会参加国は年々増加してきた(写真はロシアW杯のトロフィー)【写真:Getty Images】
ワールドカップ大会参加国は年々増加してきた(写真はロシアW杯のトロフィー)【写真:Getty Images】

【識者コラム】出場国増加とともに生まれた「密」、コロナ禍で増すリスク

 かつてワールドカップ(W杯)は今より濃密だったが、逆にそれほど「密」ではなかった。大会参加国は1982年から24カ国に、98年からは32カ国に増え、2026年大会からは48カ国に増枠が予定されている。

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 24カ国時代までは、現地にいれば決勝戦でもチケットが入手可能だったし、むしろ満員になる試合のほうが少なかった。例えば1990年イタリア大会の準々決勝では、前回優勝のアルゼンチンと豪華タレントを揃えたユーゴスラビア(当時)がフィレンツェで対戦したが、ディエゴ・マラドーナがCKを蹴るたびに、スタンドの観客が至近距離まで駆け下り、唾が届くほどの距離で罵声を浴びせた。それだけ空席が多かったということだ。

 86年メキシコ大会ではチケットが庶民には手が届かない料金設定になっていたし、94年アメリカ大会はもともとサッカーへの関心が薄い国だったこともあり、どんな人気カードが実現しても前日予約で現地のホテルを確保できた。

 様相が一変したのは、32カ国に増枠されたフランス大会からだった。ツアーで現地を訪れた多くの日本人ファンがチケットを入手できなくて問題になったが、他のカードにも軒並み大観衆が押し寄せ、チケットにはことごとく法外の値がついた。フランスに大量のファンが押し寄せ、過去に例を見ない「密」状態ができた。

 五輪の歴史も似ている。56年前の東京大会で行われたのが19競技163種目。93カ国が参加して5151人の選手が参加した。だが来年に延期された大会は、33競技339種目に膨れ上がった。参加国や選手の数は、すでに4年前のリオデジャネイロ大会の時点で、半世紀前からは倍増している。細部を見ても、例えば陸上や水泳は国家対抗形式で盛り上がるリレー種目を増やしているので、掛け持ちが多過ぎて疲弊し、肝心な個人競技に支障をきたす選手が目立つようになった。男子400mリレーでは「金メダルを目指す」ために、個人種目への出場制限を設けようとして議論の的になった。

 20世紀後半からはFIFA(国際サッカー連盟)もIOC(国際オリンピック委員会)も、利益追求のためにひたすら大会規模を拡大させてきた。だが皮肉にもコロナ禍が、歯止めの利かない拡大路線にストップをかけた。参加国や競技を増やし続け世界中から集客を図れば、当然クラスターは避けられずウイルス感染のリスクが増す。もし今回の新型コロナウイルスを克服できたとしても、「今後新たなウイルスは必ず生まれてくる」と断じる声も出ている。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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