渡独する日本人選手が直面する“壁” 現地アナリストの証言、“結果”へのシビアな評価

シビアになっていくポジション争いに勝っていくためには…

 それぞれのクラブには、それぞれの事情があるのだ。戦力的にもバランス的にも高望みをして自滅をしたらどうしようもない。監督にしても、上手くいかない時期が長くなれば、すぐに交代の憂き目に遭う。そうなると、自分たちの立ち位置を冷静に分析した結果、リーグでの生き残りと、一つでも上の順位を手にするために、現実的な戦い方を余儀なくされることが多いのは、ある意味で自明のことなのだ。

「戦い方として効率がいいというのもあると思うんですね。陣地回復というか、自分たちがきつい状況になりそうだったら、まずは前にボールを蹴り出したいわけです。でもそこで跳ね返されたら、息継ぎもできない。だから、前にすごい速い選手がいたり、フィジカルのがっしりしたセンターフォワードがいてくれたら、ロングボールから活路を見出すことができる。ヘディングで競り勝ってくれたり、走り勝ってボールを収めてくれたら、後ろから押し上げる時間を稼ぐことができるわけなんです」

 どんどんシビアになっていくポジション争いに勝っていくためには、“結果”を残すことが大事になる。ここでいう“結果”とは、ゴールやアシストという数字のことではない。もちろん、それを出すことができたら言うことはないが、それ以前にチームに求められているタスクを、どれだけしっかりとこなすことができるかが非常に重要になる。

「僕のFWとしての武器は俊敏性です」
「裏のスペースへ飛び出すタイミングは負けません」

 それら一つひとつは間違いなく武器だろう。でも、それがなんのために使われるものかを考えなければならないのだ。どれだけ俊敏性があったとしても、裏にタイミング良く抜け出したとしても、それが“結果”としてまずボールを収めて味方の攻撃、そしてシュートチャンス、ゴールへとつなげることができないと、プラスの評価はどうしてももらえない。あるいは「数字にこだわる」といって、無謀な仕掛けでボールロストの原因になってしまったり、守備への切り替えが遅れたりというのが目立ってしまったら、監督はやはり「あの選手はサッカーを理解していない」という評価を下さざるをえなくなる。武器はチームタスクを明確にこなすなかで、生かしてこそ輝く。チームがその選手に合わせたチームタスクを考慮するほど、ずば抜けた何かがあれば話は別だが……。

 いずれにしても、クラブ事情を理解し、その国のサッカーの本質を知ったうえで、自分のポジションに求められているタスクはなんなのかを正確に把握できるかどうか。上のリーグでもポジションをつかむために今何ができるのか、他のポジションでも、他の起用法でも、自分の武器を生かした戦い方を身に着けるためには、どんなことをしなければならないのかを考えられるのか。そして、自分の内面と向き合い、“壁”を自分から乗り越えてやっていく覚悟があるのかどうか。チャンスは偶然訪れることはあるが、そのチャンスをつかむには必然的な力がなければならない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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