渡独する日本人選手が直面する“壁” 現地アナリストの証言、“結果”へのシビアな評価

3部クラブのセンターラインには、1、2部でのプレー経験がある選手がやはり多い

 たしかにこうした点は、僕の指導者仲間であるブンデスリーガ2部クラブのコーチに話を聞いた時にも似たようなことを強調していた。

 実効性――。他のポジションも同様で、ボランチだったらまずボールを収めてロングパスを正確にさばけて、4バックの前で相手の攻撃をしっかりと跳ね返せる選手が欲しい。サイドの攻撃的な選手だったら、前を向いてボールを受けたらすぐに突破を狙ってクロスまで持ち込む。

 そういう基本的なプレーを、シンプルにしっかりとミスなく、やるべき仕事を高いレベルでこなせるかどうかが、監督からすればとても大切になってくる。どれだけ選手としての長所・特長があったとしても、それを試合の中でどれだけ計算できるのかが明確に見えてこないと起用はされにくいし、実際に活躍することも難しい。

「例えばですけど、昨シーズンまでウチでセンターバックでレギュラーを務めていたドイツ人選手は、そこまで足が速い選手ではないのですが、技術も高く、視野もアイデアもあって、4部リーグではチームの軸となる活躍をしていたんです。でも3部になると、その武器が抑え込まれてしまう。プレッシャーがより激しくなり、思い通りにいかなくなる。そうなると、チームにとってプラスに働かなくなってしまうんです。逆に足が速かったり、ポジション取りがもっと巧みな相手選手にいいようにやられてしまう。冬の移籍市場で補強をしたことで、後半戦はポジションを失ってしまいました」

 どのリーグでもそうだが、リーグが上に上がれば上がるほど、チームの中心軸に据えられるポジションには、リーグ全体でもトップレベルに属するくらいの選手が起用される。フィジカル的な屈強さも必要で、チームを導く存在でなければならない。だから3部クラブのセンターラインには、1、2部でのプレー経験がある選手がやはり多い。

 どのクラブも、自分たちでコンセプトをしっかりと持って戦おうとしている。でも、丁寧なポゼッションから素早い攻守の切り替え、カウンターの精度や守備での決まりごとなどすべてに高いレベルで準備をして、そのためにハイクオリティーの選手層を揃えられるクラブは限られている。そうしたクラブのプレーコンセプトとピシャリと合い、自分の得意なプレーを存分に出せるのは、それぞれのカテゴリーにおける本当の意味でのトップレベルの選手になる。

 今、チームで中心選手としてやっている選手が必ずしも一つ上のリーグで活躍できる保証になるわけではない。例えば2部の中心選手に求められるものと、1部の中心選手に求められるレベルはやはり違うし、そこには上位リーグ経験者も補強されてくる。あるいはその選手に1部で脇を固める選手としての適性がないと、そこでチャンスをつかむこともできない。もちろん、リーグ内でどの立ち位置にいるチームでプレーするかによっても、求められる要素は変わってくる。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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