日本人アナリスト、ドイツ3部での挑戦 “監督業”への夢につながる「映像分析」の技術

後半戦は4勝2分1敗、映像分析に手応え

 浜野も日々の仕事の中で、試行錯誤を繰り返していた。リーグ戦には組み合わせの流れがある。ビクトリア・ケルンでいうと、次に対戦する相手は、その前にいつもビュルツブルク、ウールディンゲン、ロストックという流れで対戦してきている。つまり浜野は、次の対戦相手がこの3チーム相手にどのように試合をしているかを、1シーズンを通して分析することになる。

「特にロストックは、僕らにとっていい基準なんですね。3部リーグのクラブの中でロストックは、攻撃の形をある程度しっかりと持っているクラブなんです。しっかりと練習しているという印象ですね。分析していると、どの試合でも見られる形があるんです。そんなロストックの攻撃にどう対応するのか、どんなリアクションを見せるのかで、対策を練ることができます」

 相手の攻守におけるポイントを整理し、それに対する対策をアシスタントコーチと一緒に検討して、監督に持っていく。それが使われるかどうかは分からない。それでもそうした地道で丁寧な仕事の繰り返しが、間違いなく大きな経験となっていく。少なからずの好感触を、浜野は抱いている。

「試合中の僕の仕事内容としては、撮影している映像からシーンを切り取ります。試合の大きな流れで失点とかチャンスとか、ポイントとなるシーンを分けて、前半が終わった段階で前半のオフェンス、前半のディフェンスというカテゴリーでまとめておきます。特に今年に入ってからは、試合が終わった後に、試合で実際に見られるシーンとチームとして試合前に立てたマッチプランとを見比べると、同じような現象が続けて起きているなというのを感じています」

 毎週自分の中で、一つひとつの作業をフィードバックしてきたことが着実に力となり、マッチプラン自体の質が上がっていく。後期の準備期間からは、これまでよりも早い段階で次節対戦相手のフォーメーションや戦い方に合わせて戦術対策を取る機会が増えてきているという。浜野が映像を撮ってポイントをまとめて、チームに見せたものが的中し、試合でも狙い通りのプレーが見られるようになれば、チームの勝機もぐっと上がってくる。実際、後半戦に入って新型コロナウイルスの影響で中断となるまでの7試合で4勝2分1敗と、一気に勝ち点「14」を稼ぎ出していた。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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