香川真司と「10番信仰」 本能的な技術と創造性、“日本らしさ”を具現化した稀有な存在

14年W杯では香川がダブル“10番”の一角を担うも…チームはGL敗退【写真:Getty Images】
14年W杯では香川がダブル“10番”の一角を担うも…チームはGL敗退【写真:Getty Images】

日本スタイルの象徴、18年W杯ベルギー戦で出色のパフォーマンス

 2014年ブラジル大会へ臨む日本代表は、その過程で史上最も強力で攻撃的なチームだった。香川と本田圭佑のダブル“トップ下”という、これでもかという布陣である。

 4-2-3-1のトップ下は本田だったが、香川も左サイドからハーフスペースへ移動してトップ下として機能していた。しかし、本大会でやはり日本のダブル“10番”はあまり機能せずに、グループリーグ敗退となっている。

 18年、バヒド・ハリルホジッチ監督が更迭されなければ、おそらく香川も本田も先発では起用されなかったと思う。ハリルホジッチ監督が想定していたのは縦に速い攻め込みとハイプレスという現在のリバプール方式で、ポゼッションしてバイタルエリアを10番に使わせるという作り込みをしていなかった。ところが、大会目前の時期に西野朗監督に交代となり、西野監督は本番直前の親善試合に勝ったメンバーでW杯初戦のコロンビア戦に臨む。10番は香川だった。

 コロンビア戦は開始早々にPKを得て、香川が決めた。この後の日本は、香川を攻撃の軸とする「日本らしい」プレースタイルでベスト16へ進出。ベルギー戦は逆転負けだったが、この試合の香川は出色のプレーぶりで攻撃をリードしていた。日本の10番が、W杯で最も輝いた試合であり、初めて日本が日本らしいプレーでベスト8目前まで迫った。

 何が「日本らしさ」かは議論が分かれるかもしれないが、ほぼぶっつけで臨んだ大会で見せた「素の力」が日本らしくないはずもなく、日本サッカー協会も「ジャパンズ・ウェイだった」と称賛している。プレースタイルの合理性と嗜好性が、初めて一致したW杯だった。

 香川は狭いスペースでプレーできる。ボールを体の下だけではなく、前でも自在に止められる。それだけ一瞬速くプレーができる。さらにステップワークが俊敏で、ターンが速く、左右どちらの足も利く。普通の選手ならプレーできないスペースと時間で、本能的にアイデアを発揮して実現させる能力は稀有だ。

 日本代表が日本らしいだけでは、メキシコと同様にW杯ベスト8の壁は厚いと思う。従来の日本らしさを超える必要がある。ただ、合理性と嗜好性を両立させた国民的なチームを成立させるには「香川」がマストだということが、ロシア大会で分かったのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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