データをいかに読み解くか 日本人アナリストがドイツで磨く「解釈」と「伝える」技術

どの数字にどんな意味があるのか、理解できる形に落とし込むことが大切

 試合の中では、それぞれ選手の立ち位置と体の向きで見える景色は全然違う。自分はフリーでパスを受けられると思っているのに、ボール保持者のほうは「今は出せない」と思うことは多々ある。そうした状況で出されたパスと、なんでもない時に出されたパスとを同じに数えることはできない。

 データは、ただ眺めているだけだと数字の羅列でしかない。だからどの数字にどんな意味があって、自分たちを改善するためにはどのデータをどのように活用したらいいかを、彼らが理解できる形に落とし込むことが大切になる。

 そうしたポイントを見つけ出し、具体的なイメージが湧くように“翻訳”していく。例えば指導者視点からすると、選手に対して『パスをもらいたい選手はパスを受けられる位置にタイミング良く動け』というニュアンスで伝えようとすることがある。それで感覚的に分かる選手はいい。

 でも、分からない選手は分からないままだ。そうした時にデータや映像から選手の特徴までを考慮して、実際に起こった事象に対して「こうした状況では意識して2メートルくらいピッチ中央へ寄ってみるといいですよ」みたいに、ある程度以上、具体的に「どのようにアプローチをしたらいいのか」を提示できたら、好変化をもたらすことができるかもしれない。そうしたサポートで、指導者の意図を表現することもできるかもしれない。

 何を求められているのか。そこが分からないとアナリストの仕事にはプラスアルファの価値を生み出せない。浜野氏も、そこを理解したうえで取り組む大切さを感じている。

「SAPの人とかシュテファン(ノップ)にも、『今このIT時代にコミュニケーションってなんだって考えたんだ』という話を聞いたことがあります。哲学めいたことなんですけど、『コミュニケーションにもいろいろあるじゃないか。ミーティングもそうだし、グラウンドでの会話もそうだし。でもミーティングに集中できていない選手もいるかもしれない。内気で自分が言いたいことを言えない選手もいるかもしれない。そういう選手には違うアプローチをしてあげないといけないよね。じゃあ、こういうのはどう? 映像を使って他の選手と話をする。それでも違うんだったら、ホテルの部屋で携帯をいじりながら見て、そこから何か生まれたり。コミュニケーションすべてをカバーできるんじゃないか、俺たちは。それが目標だ』と言っていました」

 コミュニケーションのあり方は一つではない。それぞれに適した取り方を探り出すこともまた、アナリストにとって大切な技能の一つと言えるのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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