「あれは僕のミス」 天を仰いだ長谷部誠、悔やんだワンプレーと仲間からの信頼

アディ・ヒュッター監督【写真:Getty Images】
アディ・ヒュッター監督【写真:Getty Images】

立ち尽くす長谷部を抱き寄せたヒュッター監督

 日本人記者による囲み取材の後、ドイツ人記者に囲まれると「あれは僕のミス。でも、サッカーってそういうものだから」と話し出す。地元記者も「分かっているよ」と言わんばかりに、温かい微笑みでそんな長谷部の言葉に頷いていた。

 記者だけではない。試合後、さすがに失望を隠しきれずにピッチにしばらく立ち尽くす長谷部を、監督のアディ・ヒュッターは何度も何度も抱き寄せ、大きなボディランゲージを交えて声をかけ続けていた。チームにとって、どれだけ重要な存在なのか。誰だってミスを犯すことはある。この日も、長谷部のプレーにチームは何度も救われていたのだ。そのことを、フランクフルトの関係者はみんな分かっているのだ。

 気持ちは切り替えた。だが、納得しているわけではない。ドイツ語で「Wiedergutmachung」という言葉がある。直訳すれば「また状況を良くすること」となる。ドイツでは何かミスをしてしまった時、罰を科して帳尻合わせをするのではなく、どうすれば今ある状況をより良くすることができるのかを大事にする。そんな時に、よく使われる言葉だ。

 リーグ再開後、さらに勝ち点を積み重ねていくうえで大事になってくるポイントについて聞かれた時、長谷部の目にぐっと力が入ったように感じた。

「ここ最近は少し、失点が多いなっていうのはやっぱりやってて感じてるし、最後の部分でしっかりと守りきれていないっていうのはある。今日のゲームに関しては、やっぱり攻撃で非常にいい形を作れてたんで、これはどんどん続けていくべき。そういう部分では、やることはたくさんあるかなと思います」

 自分のミスで勝ち点2を失ったら、今度は自分の力でそれ以上の勝ち点を奪ってみせる。これまで以上にチームが安定し、上位進出を果たしていくために、長谷部はここからさらに強くなって戦っていく。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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