“速くて上手い”食野は「ハーツの希望」 英初ゴールに重なる若き日のルーニーの姿

負けん気の強い21歳 初ゴールも試合後は芝生を蹴り怒り爆発

 この一連のプレーの間、マザーウェルのDFリアム・ドネリーがしっかりとついてきた。けれどもワンツーの直後、マルラニーがヒールで戻したボールを食野が右から左に素早く振ってドネリーをかわすと、“ここは行くでしょ”の言葉どおり、切り返した瞬間に相手の守備陣形がわずかに崩れて生まれたシュートコースを見逃さず右足を一閃。相手3人が飛び込んで来る寸前のところで放たれたシュートは、低い弾道で“そこしかない”という隙間をすり抜けて対角線上に飛び、ゴール右に吸い込まれた。

「ゴールのシーンを振り返ると、人数も人数でしたし、時間も時間で、まあ場所も場所(ペナルティーエリアやや外)だったんで、自分がしっかりと仕掛けて『まあここは行くでしょ!』という感じの気持ちでボールを運んで、シュートまで持っていった。自分のことを分かってもらうために、ファーストゴールはすごく必要だったし、(デビュー2試合目で)早く決められたというのはすごく良かったと思います」

 こう書くと、食野の威勢の良さも、初ゴールの喜びも伝わると思う。

 しかし21歳の負けん気の強い日本人FWは、結局は本拠地で2-3と敗れた試合後、ピッチから引き上げて来る時に芝生を思い切り右足で蹴り上げて怒りを爆発させていた。もちろん、試合後の囲み取材に現れても仏頂面。負けて喜べないのは分かるが、そこをなんとか記念すべき英国初ゴールを振り返ってみてくれないか――と頼んで、ようやくこの言葉が出てきたのだ。

 それからもう一つの疑問をぶつけてみた。それはこの日、食野がなぜ先発ではなかったのか、ということだった。

 前回の8月31日に行われたデビュー戦は試合前日入りという日程で、前半31分からのスクランブル投入で好アピール。それから代表ウィークの2週間、しっかり調整期間があったなかで迎えた今回のマザーウェル戦は、先発確実だと見るのが当然だった。

 実際、この日のマッチデイ・プログラムも食野が表紙。チームの新しいスターに対する期待は、予想以上に膨れ上がっていた。

「オースティン(・マクフィー/日本語が堪能な助監督)や、監督と話をしながら決めています。今月は5試合あるということで、90分70%でやるよりも、30分100%でやるほうがいいということになりました。まあ、いずれは90分を100%でということになるんですが、今は徐々に慣れていく段階だと思うんで。そこはオースティン、監督にも理解してもらっています。自分がベンチからがいいって言ったわけではありませんけど、自分が慣れることと、コンディションの向上をしっかりやっていきたいと思います」

 確かにそのとおりだ。この試合で食野が見せたクオリティーは図抜けていた。しかし、それでも海外初挑戦の21歳。「こっちのサッカーは切り替え(スピード)が速い」と語って、1日も早く慣れて対応しなければならないと課題も見出している。また、この2週間のトレーニングは「すごくきつかった」とも話した。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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