完成形に近い“ペップ・シティ”、4年目の姿は? 名将の新たな挑戦は進化か、苦し紛れか
ペップにとってのサッカーは「バルセロナのプレーをやること」
2018-19シーズンのプレミアリーグ王者は、マンチェスター・シティに決まった。ジョゼップ・グアルディオラ監督のチームが優勝すると、“史上最強の2位”が生まれることがあるが、今回はリバプールがそうなってしまった。リバプールとのデッドヒートは最後まで続いたが、ハナの差(勝ち点1差)でシティが逃げ切っている。
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ペップはバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティとこれまで率いたチームにすべてリーグ優勝をもたらしているが、バイエルンとシティはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を獲れていない。それぞれ欧州最強クラスではあったが、バルセロナでは2回も優勝しているのに、バイエルンとシティは決勝にも進めていない。
その違いはなんなのだろう。リオネル・メッシがいるかいないか――この差は大きい。ただ、それだけでもないと思う。
ペップにとって「フットボールをプレーする」とは、「バルセロナのプレーをやること」とイコールと考えていい。プレーのやり方はいろいろあるが、どうやってボールを扱うか、どのポジションに立つか、どうやって敵の守備を破ってゴールするか、いかに守るか……。そのセオリーがバルセロナには明確にあり、育成年代から叩き込まれている選手がチームの中核を成している。ペップ自身もカンテラ育ちだ。
シャビとアンドレス・イニエスタは抜けたが、まだメッシ、セルヒオ・ブスケッツ、セルジ・ロベルト、ジェラール・ピケはいる。バイエルンとシティには、そういう選手は当然いない。そこで、プレーのやり方から教えていかなければならなかったわけだが、1シーズンで結果を出さなければいけない以上、悠長に育てている時間はない。
そこでペップは「形」から入った。いわゆるポジショナルプレーだが、バルサなら敵との関係で選手が即興的に弾き出せるポジショニングを、ある程度機械的に導入せざるをえなかったと思う。
例えば、攻撃で敵の正面に立たないというセオリーがある。守備では逆に敵を自分の前へ置く。このセオリーだけで、いわゆる「偽サイドバック」のポジショニングは選手判断でやれるのだが、そのセオリーが体に入っていない選手は習慣的にタッチライン際の決まった場所から動かない。そこで先に形を示して、意味は形をこなすうちにつかんでいくという方式になっていた。バイエルンでもシティでも、1年目には形をこなすので精一杯というぎこちなさが見られたものだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。