恩師・城福浩が語る柿谷曜一朗の原風景(1) 「こいつ普通じゃないな」

 テレビの前で、その彼のプレーを注視する指導者がいる。かつて柿谷とともに世界に挑んだ城福浩(現J1ヴァンフォーレ甲府監督)は、頬を緩ませて言った。

「とにかくピッチに立ってほしい。あいつはユース年代から才能のある選手として騒がれてきた。そういった境遇の中で育った選手は何人もいる。あいつも必ずそのうちの一人として名前が挙がる。そういう選手で唯一、ブラジルW杯のメンバーに入った。曜一朗はピッチに立てば、フットボーラーの誰もが驚く瞬間を生み出すことができる。ぎりぎりのところで判断を変えたり、機知に富んだプレーはサッカーを知っている人をオッと言わせることができる。その機会は必ずある。それが勝負を決するプレーなら一番良いけど、時間さえもらえれば、その片鱗は見せられる、必ず」

 その次に続ける言葉を発する直前、少し緩んだ目元にはグッと力がこもった。

「世界に日本の才能を見せてほしい。だから、ピッチに立ってほしいなんて言葉じゃ足りない。あいつはピッチに立たなければいけないし、『必ず立て』と言ってやりたい」

 そう言うと、城福は柿谷と過ごした育成年代の戦いの日々を思い返し、また目尻を下げた。

 クスリと笑う話がある。城福は20059月、ヤンチャ盛りの柿谷が代表合宿に持ち込んだアニメ・ルパン三世のキャラクター峰不二子のフィギアを没収した。指揮官は当時、そのことをとがめることができた。だが、そうはしなかった。翌日から、そのフィギアを「不二子ちゃん」と名付け、チームに常に帯同するマスコットを誕生させた。その後、アジア予選を突破し、U-17W杯に出場する頃にはマスコットから昇格し、勝利の女神となった。

 

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