長谷部所属フランクフルトを覆う悲嘆と憤り バイエルンによるコバチ監督“強奪”の衝撃

有能な監督をミュンヘンのクラブに引き抜かれるやるせなさ

 フランクフルトは12-13シーズンにリーグ戦6位に入ってからは成績が伸び悩み、近年は残留争いを強いられていた。しかし今季はコバチ監督の指揮の下、リーグ戦、カップ戦ともに好成績を残していただけに、その原動力である指揮官をドイツの盟主であるバイエルンに引き抜かれることに、地元サポーターたちは憤りを感じている。しかもコバチ監督は、最近まで「来年も自分がアイントラハトの監督であることを疑う理由はない」と語っていたのだから、青天の霹靂とはまさにこのことだろう。

 アイントラハトが本拠地を置くフランクフルトの正式名称は『フランクフルト・アム・マイン』。ドイツ連邦共和国のヘッセン州に属し、国内ではベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ケルンに次ぐ第5の都市と言われ、現在は国内主要銀行の本社が置かれる金融都市として名高い。また日本からはミュンヘン、そしてこのフランクフルトに直行便が飛んでおり、日本からドイツへの玄関口としても有名である。つまり都市の規模としてはミュンヘンとフランクフルトはそれほど遜色なく、拮抗している状況ではある。

 またブンデスリーガの世界では、フランクフルトはバイエルンよりも約1年早い1899年創立と、その歴史は古い。5万2300人の収容人数を誇るホームのコメルツバンク・アレーナも毎試合満員でチケット入手が困難と、地元での人気も絶大だ。クラブカラーのひとつである黒を基調にしたスタジアム内観は引き締まり、傾斜のある四方のグラウンドから滝のように降り注ぐサポーターの轟音は迫力満点。ただしフランクフルトのリーグ戦優勝回数は1958-59シーズンの1回のみに対し、バイエルンは今季を含めて通算28回と、その差は歴然でもある。つまり今のアイントラハト・サポーターの心境としては、せっかく若く有能な監督の下で着実に成長を果たしている時期なのに、その拠りどころである指揮官をミュンヘンのチームに強奪されてしまう、そのやるせなさに打ち震えているのだろう。

 そんななか、コバチ監督から絶大な信頼を得てレギュラーを張っている長谷部は先頃、2019年6月までの1年間の契約更新を発表した。聡明な日本人MFのプレーが、ここ、フランクフルトで観続けられることは大変喜ばしいが、せっかく盛り上がってきたアイントラハトの界隈が監督の去就によって不穏な空気に包まれるのは、非常に残念である。

(島崎英純/Hidezumi Shimazaki)



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島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

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