代表選出を境にスランプ「後悔はありません」 復活の遅咲き28歳…吹っ切れた「ゴール前で勝負する」

C大阪戦では不発に終わった谷村海那【写真:徳原隆元】
C大阪戦では不発に終わった谷村海那【写真:徳原隆元】

川崎戦で6試合ぶりのゴールを挙げた谷村海那

 日本代表の9月・10月シリーズで初招集された谷村海那(横浜F・マリノス)が、来たる11月シリーズで選外になった。出場7試合で日本人最多タイの6ゴールを決めていたものの、代表選出を境に5試合連続無得点とスランプに陥っていた。絶好調だった28歳のストライカーに何が起こっていたのか。6試合ぶりのゴールとともに復活の雄叫びを上げた11月1日の川崎フロンターレ戦後に、胸中に秘めていた苦悩が明かされた。(取材・文=藤江直人)

【PR】日本人選手の活躍を毎節無料で!ABEMAでブンデスリーガ放送中!

 今月の国際Aマッチシリーズに臨む森保ジャパンのメンバーリストに、自分の名前は記されていなかった。谷村は、それでも絶対に下を向かないと4日の発表前から心に決めていた。

 28歳にして初招集された9月・10月シリーズ。日本代表を率いる森保一監督は、年代別の日本代表にもまったくの無縁だった谷村の招集理由について「日本人選手で今、一番点を取っている」と説明した。

 発表された9月17日時点のJ1得点ランキングを振り返れば、谷村は出場7試合で6ゴールをゲット。鈴木章斗(サンフレッチェ広島)と並ぶ2位で、トップのレオ・セアラ(鹿島アントラーズ)を2点差で追っていた。

 望外の吉報に「正直、驚いたのが一番でした」と声を弾ませてから1か月半あまり。谷村のゴール数は1つ上乗せしただけの「7」にとどまっていて、10ゴールと自身2度目の2桁に乗せた鈴木、途中出場だけで8ゴールを挙げた瀬川祐輔(柏レイソル)に次いで、長倉幹樹(FC東京)とともに日本人3位タイになっている。

 しかも、代表選出直後の9月19日に行われた水戸ホーリーホック戦を皮切りに、日本代表として2試合に出場した9月・10月シリーズをはさんで、5試合連続で無得点というトンネルに入り込んでしまった。

 スランプ気味の状態では、引き続き招集されるのは難しかったと言わざるをえない。今年前半のJ1百年構想リーグでも9ゴールを挙げた、まさに昇り調子だったストライカーにいったい何が起こっていたのか。

「自分が苦手な部分に取り組まなきゃいけない、という一心でプレーしていたなかで、それが本当に上手くいかずに、相手ゴール前に入っていく回数も減っていた。ゴールが取れない、上手くいかないという思いでした」

 こう振り返った谷村が「苦手な部分」と自覚していたのは何なのか。

「中盤へ降りるタイミングであるとか、3人目で関わる縦パスを要求するとか。それまでは(遠野)大弥や(天野)純さんに任せていいところもやろうとしていた。それが本当に自分のダメなところでした」

 プレーの幅をさらに広げようと練習や試合で試行錯誤を重ね、結果として本来の自分を見失うような状況に陥ってしまった。9月・10月シリーズで、森保ジャパンのエースストライカー、上田綺世(リール)ら常連組と同じ時間を共有した。谷村も「代表活動では、そういうプレーもやらなきゃいけない」と言われていたと明かす。

 自分に求めるプレーの基準が上がったがゆえに、トンネルに足を踏み入れてしまったのか。

「悩んだというか、ただただやらなきゃいけない、それがやれたらもっとプレーの幅が広がる、自分がもっと上にいけると思って挑んでいましたし、ただ単にそれがうまくいかなかっただけでした」

 ゴールから遠ざかった時間をこう振り返った谷村は、チームメイトに感謝の思いも捧げている。

「練習でも全然決められず、まったく上手くいかず、そんなときでも常にいい声をかけてくれていたし、ずっと寄り添ってくれていた。いつかゴールで応えなきゃいけないと思ってプレーしていました」

 その1人で、2度におよぶ右アキレス腱断裂から完全復活を遂げつつある遠野大弥が言う。

「代表に呼ばれてから学ぶものが増えたというか、そのなかで悩みというものもやはりあったと思う」

 代表ウィーク明けのマリノスは、4試合連続のドローにあえいでいた。それでもスティーブ・コリカ監督は自分を先発で使い続けてくれる。チームを第一考えた時に、谷村のなかで吹っ切れるものがあった。

「自分がゴールを奪ってチームを勝たせるしかない、と。もう余計なプレーはせずに、あれこれと考えすぎずに、相手ゴール前へどんどん入っていってゴールにこだわっていこう、と。そういう気持ちでいっぱいでした」

 ホームの日産スタジアムに川崎フロンターレを迎えた1日のJ1リーグ第13節。マリノスが2-1と1点をリードして迎えた前半41分だった。ゴールを量産していたときの谷村が満開の笑顔を弾けさせた。

 右サイドを突破したボランチ山根陸が放ったクロスを、ゲームキャプテンのFW宮市亮がファーから頭で折り返した相手ゴール前。以心伝心でポジションを取っていた谷村が完璧なタイミングで頭をヒットさせた。

 後頭部のあたりでボールに薄く当てて決めた、6試合ぶりとなる今シーズン7点目を谷村が振り返る。

「当てすぎたら上に行くというか、ボールの高さ的にもそういう感じだったのでもう逸らすしかない、と」

 相手ゴール前へどんどん侵入していく積極果敢ぶりと、ボールをヒットする刹那に発揮した独特の感覚。谷村は「フォワードは1点取れたら流れに乗れる。その意味でも大きい1点です」とさらに声を弾ませた。

「自分が上に行くためにあれこれとやっていたので、その間の5試合には本当に後悔はありません。今日に関しても(中盤は)大弥に任せてゴール前で、という話をコーチともしていたし、それが上手くはまりました。結局は上に行くためにはゴールしかない、やはり自分はゴール前で勝負するんだと今回ではっきりできました」

 最終的には川崎を4-2で破り、5試合ぶりの勝ち点3をゲットした3日後にブラジル、パラグアイ両代表とシンガポールで対峙する森保ジャパンのメンバーが発表された。冒頭で記したように谷村の名前はなかった。

 それでも川崎戦後に「前回も点で評価されたので、これからも点にこだわっていきたい」と決意を新たにした谷村のなかで葛藤は完全に過去のものとなった。もう迷わない。ストライカーが評価される最大の指標となるゴールだけを貪欲に追い求めて、谷村は相手ゴール前で身長183センチ、81キロの身体をフル稼働させていく。

(藤江直人 / Naoto Fujie)



page 1/1

藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング