欧州挑戦の21歳が秘める「なんでオレじゃない」 1試合で変わる運命…目指す“未来”は「近づいている」

今年AZに移籍した市原吏音【写真:Pro Shots/アフロ】
今年AZに移籍した市原吏音【写真:Pro Shots/アフロ】

市原吏音が語る欧州でプレーする「意味」

 選手を起用するのは監督だ。それでも自らの価値を証明する方法はプレーしかない。AZアルクマールでポジション争いを続ける市原吏音は、そう自分に言い聞かせている。エール・ディヴィジでの戦い、そしてヨーロッパリーグという1つ上のステージ。目の前に広がる大きな舞台と、日本代表への距離感を、市原はどう捉えているのか。(取材・文=林遼平/全4回の3回目)

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「僕個人としては、そこまで今出ているCBに圧倒的に劣っているとも思っていないです。もちろん『なんでオレじゃないんだよ』という気持ちがあるのも事実なんですけど、ただ決めるのは監督で、監督が決めたなかで選手がプレーできるわけなので。やはり監督の信頼を掴む、そこには練習で証明するというのをずっと続けていかなければいけないなと思います」

 納得がいかないことがあっても、プレーで見せるのが自分の仕事だ。自分の価値を上げる手段はプレー以外にない。ヨーロッパのクラブでは、実力が拮抗していればより若い選手や、自国の選手が優先されることは珍しくない。市原はまだAZで2シーズン目。出場機会に恵まれなかった昨季を思えば、今季は結果を出さなければならない時期に差し掛かっている。それでも市原は、その現実を言い訳にするつもりはないという。

 今シーズンのAZは、昨季のカンファレンスリーグから1つ上のステージ、ヨーロッパリーグの舞台に立つ。実は市原自身、渡欧するまで各コンペティションの仕組みをよく理解していなかったという。だが昨季カンファレンスリーグを戦うなかで、そのレベルの高さを肌で知った。

「正直こっちに来るまでは、カンファレンスやヨーロッパリーグのことは仕組みも含めてあまり分かっていなかった。チャンピオンズリーグしか見ていなかったので。でも、昨シーズン、カンファレンスリーグに出て、他の国のチームとも戦えるし、相手のレベルの高さを感じました。それに自分たちが負けたシャフタールが今年チャンピオンズリーグに出ていたりしている。そう考えた時、最近は本当にチャンピオンズリーグに出たいなという気持ちがより強くなっています。そのうえで、今年はヨーロッパリーグが戦える幸せと、それこそ(プレミアリーグの)サンダーランドとやったりしますけど、そこではプレミアリーグのレベルを肌で感じられるいい機会だと思います。本当にいい環境というか、無駄にはできない大会かなと思います」

 昨季との差を肌で感じながら戦うシーズン。その舞台に立てるかどうかは保証されていない。それでも、ヨーロッパの舞台は常に多くの目に晒されているからこそ、たった1試合が選手の立場を大きく変えることがある。

「たぶん1試合とかでオファーがあったり、立場がいろいろ変わったりする大会だと思います。そういうなかでは、やはり今の自分にとって大事な試合だと思うので、いつチャンスが来てもいいような準備をずっとするのが、今できることなのかなと思います」

 シーズン開幕にあたって目標を掲げるタイプではないという市原だが、それは意識が低いということでは決してない。むしろ、口にする言葉よりも先に、心の中で燃やしているものがあるからだ。

「あまり目標を立てるタイプではないんです。とりあえず怪我をせずに1年間、試合に絡み続けるというのが、毎年そういうことを言ってますけど、まずそこが目標になってくるかなと。プラスアルファだと、シーズン始めに立てたわけではないですけど、やはりレギュラーを勝ち取るというのが、自分の心の中ではその気持ちがずっとあります」

 レギュラーの座という、決して声高には語られない目標。しかしその先にあるものを尋ねると、市原の答えは明確だった。日本代表だ。J2でプレーしていた頃と比べて、その距離感はどう変わったのか。

「日本にいる時よりも近づいてはいると思います。J2とかで試合に出ている時よりも、海外に来て海外でやるというのが一個大事だと思うので近づいてはいます。だけど、じゃあすぐ試合に出て、すぐ呼ばれるかと言われたらそうじゃないと思う。自分たち(U-23日本代表)と同じタイミングでA代表の試合がありますけど、そこに呼ばれているCBの選手たちよりも、やはり活躍をしなければそこには入れ替われないと思います。だから近づいているとはいえ近くないし、かといって遠すぎない、常にやっぱ目標になる、自分のこの気持ちを高めてくれる、いい存在かなと思っています」

 近くはない。だが、遠すぎもしない。監督の信頼、レギュラーの座、そして代表――。この階段を一段飛ばしで駆け上がる方法はない。やるべきことは、目の前の一戦、一戦を確実に積み重ねていくことだけだ。証明する舞台は、練習であり、リーグ戦であり、そしてこれから挑むアジア競技大会でもある。市原吏音の視線は、常に一つ先の舞台に向けられている。(第4回に続く)

(林 遼平 / Ryohei Hayashi)



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林 遼平

はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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