J内定ライバルに「ビビってしまって」 迷った名門大進学…“初めて”の全国で手にした「主役」の座

流通経済大の土佐昂清【写真:安藤隆人】
流通経済大の土佐昂清【写真:安藤隆人】

流通経済大3年生GK土佐昂清「これが人生初の全国大会」

 9月2日から12日にかけて行われている、大学サッカー日本一を決める第50回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。ここではこの大会で躍動する選手に迫っていく。

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 準決勝で関東大学サッカーリーグ2部対決となった立正大との一戦を2-1で制し、12年ぶりの決勝進出を果たした流通経済大。躍進を続けるチームにおいて、最後の砦を任されている3年生GK土佐昂清(こうせい)にとって、今大会は待ちに待った晴れ舞台だった。

「小学、中学、高校と、これまで全国トーナメントに出たことがなかったので、これが人生初の全国大会と言えるんです」

 彼のキャリアを振り返ると、エリート街道を歩んでこなかったわけではない。むしろ、その逆だ。小学校時代はバディサッカークラブで過ごし、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジには出場したが、全日本少年サッカー大会には出場できなかった。中学時代はFC東京U-15深川でプレーしていたが、トップに定着した中学3年時には日本クラブユースサッカー選手権が中止となり、高円宮杯全日本U-15サッカー選手権への出場も逃した。

 そしてU-18には昇格できず、高校は名門・流通経済大柏に進学。3年生になると、シュートストップ、キャッチング、キック、クロス対応とあらゆる面で安定した力を発揮する守護神として不動の地位を築いた。プレミアリーグEASTでは21試合にフル出場したが、インターハイは予選決勝でライバルの市立船橋に敗れ、選手権予選も準決勝で日体大柏に屈した。

 特に選手権では、自身の卒業後に2年連続で後輩たちが国立競技場のピッチに立つ姿を目にしただけに、「なんでいつも重要な大会になると手が届かないんだろうかと、本当に悔しい思いでした」と振り返る。

 大学に入っても、昨年まではトップチームが遠かった。だが、この現実は覚悟の上だった。
流通経済大柏時代、1学年上にはデューフエマニエル凛太朗(流通経済大/京都サンガF.C.加入内定)がいた。191センチのサイズと鋭い反射神経、身体のバネを生かした広範囲のシュートストップを得意とし、年代別日本代表にも選出されていたGKだ。

 土佐にとって高校2年生まで分厚い壁として立ちはだかったデューフは、そのまま流経大へ進学し、1年時から出場機会を掴んでいた。それだけに進路選択時、土佐は流経大への内部進学を迷ったという。

「エマ(デューフの愛称)と3年間ポジション争いをすることは分かりきっていたので、正直、最初はそれにビビってしまって、流経大じゃない選択肢を探していました」

 他の関東1部、2部の大学への進学に気持ちが向いていたが、大平正軌コーチと話し合いを重ねるなかで、心境が変わっていった。

「大平さんに『エマがいると言っても、そこに勝てないと次(プロ)のステージはないよ。その勝負を避けるよりも、あえて挑んでいった方がいいんじゃないか』と言われた時に、確かにそうだなと思ったんです。それに流経大は大学サッカーの中でかなりの数のプロを出しているし、その中にはGKも多い。自分の成長を考えると、チャレンジした方がいいと思ったんです」

 出られなくなる可能性も覚悟の上で流経大の門を叩くと、そこには高校時代からさらにスケールアップしたデューフの姿があった。

「シュートストップだけでなく、クロスに対しても『僕じゃ出られない』と思うボールにも積極的に飛び出して処理する。高校時代とは比にならないその姿を間近で見たら、やっぱり厳しいなと思う一方で、やりがいがあるなと思いました」

 その存在にビビっていた高校時代とは違い、むしろ土佐にはデューフの成長にワクワクする気持ちが芽生えていた。手本とすべきGKから何を学び、何を吸収するのか。その上で、自らの武器であるビルドアップの技術やキックの精度をどう磨き上げていくのか。明確な課題と方向性を持って大学サッカーに打ち込んだ。

 そして、大学3年生になると、チャンスは突然やってきた。シーズン当初はBチームスタートだったが、デューフら上位のGKが相次いで負傷離脱。関東2部リーグ開幕直前にトップへ昇格すると、そのまま大学トップチームでのデビューを果たした。

 目標をぶらさず積み上げてきた土佐は、巡ってきたチャンスを手放さなかった。開幕スタメンを飾ると、そのまま前期はゴールマウスを守り続け、2位につけるチームを支えた。

 デューフが復帰してからも、守護神の座は譲らなかった。自身初の全国トーナメントとなる総理大杯でもスタメンを維持。1回戦の鹿屋体育大戦でビッグセーブを披露し、2-0のクリーンシート。2回戦の福岡大戦でも安定したゴールキーピングとビルドアップを見せ、3-1の勝利に貢献した。

 準々決勝では関東1部の日本体育大を1-0のクリーンシートに抑え、立正大との準決勝では前半26分、相手FWとの1対1で冷静に飛び出して距離を詰め、シュートに反応してビッグセーブ。雨が降りしきり、所々に水たまりができるピッチでも正確なトラップとパス、ミドルキックでビルドアップの起点となり続けた。手でも足でもチームに安定感をもたらし、2-1の勝利に貢献。ついに決勝までたどり着いた。

「鹿屋体育大戦も福岡大戦も、大きなピンチが1回か2回あって、それをしっかり防いで『1点分阻止できたな』と思うシーンがあった。1点もののピンチを抑えることは、チームが1点取るくらいの価値があると思っているので、そこは一番自信がつきました」

 ずっと届かなかった晴れの舞台で、ついにファイナリストとなった。「絶対に優勝したい」と燃える土佐だが、冷静に自分を見つめるその目は変わらない。

「こうして正GKとしてプレーしていると、4年生のありがたみを本当に感じます。リーグでも4年生GKがいつも声をかけて、背中を押してくれますし、今大会でもエマが僕を励ましてくれる。悔しい気持ちはあると思いますが、チームのために戦っている姿は本当に学びになりますし、この大会後は強烈なライバルになると思っています」

 総理大臣杯は残すところあと1試合。だが、その先には関東2部リーグが再開し、1年での1部復帰を懸けた残り11試合が待っている。

 もちろん、デューフにポジションを譲るつもりはない。一方で、デューフ自身も強烈な危機感と向上心を持ち、さらに成長してくることを土佐は十分に理解している。

「今、こうして僕が出続けられているのは、総理大臣杯という1つの大会の中で勝ち上がっているから。リズム的にGKを変えられないシチュエーションだから出られていると思っています。だからこそ、決勝はクリーンシートに抑えて優勝をして、周りの信頼をもっと掴んだ上で、後期のより厳しくてハイレベルな『本物の競争』に臨みたいと思います」

 憧れであり、学ぶ存在だった1学年上の先輩は、今や絶対に越えなければならないライバルでもある。

「僕が成長できたのも、エマがいてくれたおかげ。J1に加入するような大学屈指のGKと高校、大学とともに練習することができて、こうして今はポジション争いができている。これは当たり前のことではないし、実際に多くのことを学べたからこそ、本当にここに来てよかったと思っています」

 覚悟を決めて大学サッカーに飛び込んだことで、未来への扉が開かれようとしている。高校時代から武器にしていた安定感はさらに増し、ビルドアップは彼の絶対的な武器になっている。デューフに負けないものを持っているからこそ、この大会以降は「代役」ではなく、「主役」になるつもりだ。

 そのためにも、まずは12日の国士舘大との決勝戦。すべてを懸ける気持ちでゴールマウスの前に立ち、最後まで流経大のゴールを守り抜く。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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