新天地注目の欧州日本人 若手2人がJ→5大リーグ直接移籍でも存在感…代表復帰目指す28歳が英国挑戦

マーケット最終盤まで動きがあった欧州日本人の移籍
2026年夏、日本代表はワールドカップという大きな節目を終えた。しかし、選手たちの時間はそこで止まるわけではない。
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次の2030年W杯まで4年。すでに代表の中心にいる選手にとっては、その立場を維持しながらさらに高いレベルへ進む時間が始まり、若い世代にとっては、これから代表へ食い込んでいくための競争がスタートしている。
そして、その競争の主戦場は日々を過ごすクラブだ。どのような環境を選び、そこでどれだけ試合に出て、結果を残すのか。その積み重ねが4年後につながっていく。
そんなW杯イヤーの夏、日本人選手の移籍市場も大きく動いた。すでに欧州で実績を積んだ選手のステップアップもあれば、Jリーグから直接5大リーグへ飛び込んだ若手もいる。すでに各国リーグが開幕した中、ここでは新天地での飛躍が期待される日本人選手をピックアップしたい。
移籍市場の最終盤に飛び込んできた大きなニュースが、中村敬斗のリヨン移籍だった。
現地時間9月2日、日本時間3日に加入が正式発表された。スタッド・ランスから買い取り義務付きの期限付き移籍となり、契約は2030年6月まで。背番号は「11」に決まった。リヨンでプレーする初の日本人選手にもなる。
中村にとって、待ち望んだステップアップでもある。
2023年夏にLASKリンツ(オーストリア)からスタッド・ランスへ移籍すると、フランスでも左サイドからゴールへ向かうアタッカーとして評価を高め、在籍3年間で公式戦30得点を記録した。クラブがリーグ・ドゥへ降格したあとも残留してプレーし、今夏のW杯では日本代表として1得点1アシストを記録。昨夏には希望していた移籍が実現しなかった経緯もあったが、フランスで結果を積み重ねた末に手にした新天地がリヨンだった。
26歳という年齢を考えても、ここからの数年間はキャリアの大きな勝負どころになる。日本代表でも武器となってきた左サイドからの推進力とフィニッシュ能力を、より大きなクラブでも発揮できるか。単にリーグ・アンへ戻るだけではなく、リヨンで継続的に結果を残せれば、選手としての評価をもう一段引き上げることができる。
奇しくも今回結んだ契約は2030年まで。次のW杯へ向かう4年間を、中村はリヨンからスタートさせる。
中村とは対照的に、一足早く新天地での競争をスタートさせたのが19歳の佐藤龍之介だ。
7月7日にFC東京からバレンシアへ完全移籍し、2031年までの5年契約を結んだ。FC東京の育成組織で育ち、16歳でトップチームデビュー。ファジアーノ岡山への期限付き移籍を経てFC東京へ復帰すると、百年構想リーグでは19試合6得点1アシストを記録し、その活躍を足掛かりにスペインへ渡った。
注目したいのは、「19歳の将来枠」にとどまらず、早くもラ・リーガの戦力として起用されていることだ。
プレシーズン初戦のエルデンセ戦ではさっそくゴールを記録。リーグ開幕後も3試合すべてに先発し、計207分に出場している。まだゴールやアシストという数字こそついていないものの、19歳でスペインへ渡った日本人選手が、いきなりラ・リーガの実戦の中でポジションを争えていること自体に大きな意味がある。
バレンシアも佐藤について、左右や中央でプレーできる万能性、スピード、連係能力、狭いスペースで相手をかわす技術を特徴として挙げている。欧州初挑戦でありながら、そうした持ち味をどこまで継続して発揮できるか。
2030年には23歳。次回W杯では主力になっていても不思議ではない年代だ。まずはバレンシアで継続的に試合に出場し、この高い基準を日常にできるか。今夏に新天地を選んだ日本人の中でも、4年後への伸びしろという意味で特に注目したい一人だ。
Jリーグから直接欧州5大リーグに飛び込んだ若手といえば、7月17日にサンフレッチェ広島からル・アーヴル(リーグ・アン)への期限付き移籍が決まった中村草太。移籍期間は2027年6月末まで。広島加入からわずか1年半で手にしたフランス挑戦となる。
8月23日の開幕モナコ戦では後半25分から出場し、さっそくリーグ・アンデビュー。その後のリヨン戦では終了間際にネットを揺らしたものの、VARによってハンドと判定され、惜しくもゴールは認められなかった。新天地でも早い段階からゴールへ迫る姿勢を見せている。
スピード、運動量、ゴールへ向かう積極性をフランスの強度の中でも発揮できるか。23歳という年齢を考えても、ここでの経験次第では2030年へ向けて代表争いへ加わる可能性を持つ。
イングランドにステージを移した日本人
8月19日にパルマからアストン・ビラへ完全移籍した鈴木彩艶は、セリエAからプレミアリーグへとステージを上げた。W杯で日本代表の正GKを務めた23歳は、第2節アーセナル戦で先発し、新天地でのプレミアデビューをフル出場で飾っている。
ここからは代表での立場を守るだけではなく、世界最高峰のリーグでGKとしてどこまで評価を高められるかが問われる。23歳という年齢を考えても伸びしろは大きく、プレミアで積む経験は2030年へ向けても大きな財産になる。
セルティックで得点力にも磨きをかけた前田大然は、7月25日にプレミアリーグ昇格組のイプスウィッチ・タウンへ移籍。セルティックでは公式戦212試合79得点を記録し、W杯でもゴールを奪った日本代表FWが、ついにプレミアへ挑戦している。
前線からの圧倒的な運動量とスプリント、背後への抜け出しに加え、セルティックではフィニッシャーとしても成長。昇格組のイプスウィッチにとってまず目指すのはプレミア残留であり、前田にも攻守両面で大きな役割が期待される。
一方、同じセルティックからイングランドへ渡った旗手怜央は、プレミアではなく2部チャンピオンシップのバーンリーへ完全移籍。昨季プレミアから降格したバーンリーにとって目標は1年での復帰となる。
前田は昇格したイプスウィッチでプレミア残留を目指し、旗手は降格したバーンリーでプレミア復帰を目指す。同じ夏にセルティックを離れた日本代表2人だが、そのスタート地点は異なる。それぞれの立場からイングランドでどこまで存在感を示せるか注目したい。
8月7日にクリスタル・パレス加入が決まった冨安健洋は、再びプレミアリーグへ戻ってきた。
冨安の場合、トップレベルで戦える能力そのものはすでに証明してきた。最大のテーマはコンディションを維持し、継続的に試合へ出場することだろう。鎌田大地とともに戦うパレスで再びプレミアの強度に身を置き、完全復活へつなげられるか。
代表復帰という意味で興味深い新天地を選んだのが伊藤敦樹だ。8月28日にヘントからボルトン・ワンダラーズへ完全移籍し、3年契約を結んだ。2024年夏に浦和からベルギーへ渡った伊藤は、ヘントでの2シーズンで公式戦79試合に出場。欧州で経験を積んだ28歳が、今度はイングランドへ戦いの場を移した。
ボルトンは昨季リーグ1のプレーオフを勝ち抜き、今季からチャンピオンシップへ昇格したクラブ。伊藤自身は今季ヘントで公式戦出場がなく、ボルトンでもまだデビュー前だけに、まずは新天地で継続的な出場機会を取り戻すことが最初のテーマになる。
2023年に日本代表デビューを果たし、トルコ戦では初先発で代表初得点も記録したが、その後は代表から遠ざかっている。2030年には32歳。それでも、強度の高いチャンピオンシップで持ち味の運動量や攻守に関わる力を発揮し、もう一度評価を高めることができれば、日本代表復帰への道が開ける可能性はある。28歳で選んだイングランドでの挑戦が、キャリアの新たな転機となるか。
ステップアップを果たしたエールディビジ日本人
上田綺世も、オランダで結果を残して新たなステージへ進んだ。現地時間8月31日にフェイエノールトからリールへの完全移籍が決まり、2030年までの4年契約を締結。今季は移籍までにフェイエノールトで4試合3得点を記録しており、好調を維持したままフランスへ渡った。
ベルギー、オランダを経て、28歳で初めて挑む欧州5大リーグ。ストライカーだけに求められるものは明確で、リーグ・アンでもゴールを積み重ねられるか。欧州で磨いてきた得点力をさらに高いレベルで証明できれば、日本代表の最前線を巡る競争でも大きな意味を持つ。
NECナイメヘンで評価を高めてきた佐野航大は、8月にPSVへ移籍。同じエールディビジ内とはいえ、欧州カップ戦を恒常的に狙う強豪への移籍は明確なステップアップになる。
22歳の佐野がPSVでポジションを掴めば、その先にはさらに大きな舞台も見えてくる。日本代表の中盤を巡る競争へ本格的に割って入れるかという意味でも、重要なシーズンだ。
シント=トロイデン加入の若手2人、“3人体制”のフライブルクにも注目
7月17日にセレッソ大阪からシント=トロイデンへ完全移籍した石渡ネルソンは、早くもベルギーで出場機会を掴んでいる。開幕から先発に入り、第2節サークル・ブルージュ戦では、自らのボール奪取から攻撃に加わって加入後初ゴールを記録した。
さらに7月20日には鹿島から荒木遼太郎も完全移籍で加入。谷口彰悟、小久保玲央ブライアンら日本人選手が在籍する環境で、若い2人も欧州でのキャリアをスタートさせた。荒木もヨーロッパリーグ・プレーオフで新天地デビューを果たしており、互いに刺激を受けながらまずはベルギーで確かな実績を作り、その先のステップアップにつなげたい。
シント=トロイデンで経験を積んだ21歳の後藤啓介は、今夏にフライブルクへステップアップ。カンファレンスリーグ・プレーオフのマザーウェル戦では第1戦、第2戦ともに途中出場からゴールを奪い、2試合連続得点でリーグフェーズ進出に貢献した。
さらにフライブルクには、同じシント=トロイデンから山本理仁も完全移籍。鈴木唯人と合わせて日本人3人体制となった。ブンデスリーガ開幕戦では、その鈴木がブレーメンを相手にいきなりハットトリックを達成。後藤、山本、鈴木の日本人トリオが、ドイツでどこまで存在感を高めていくのか。今季のフライブルクそのものにも注目したい。
2026年W杯が終わったばかりの現在、4年後の日本代表メンバーを予想するにはまだ早い。それでも、2030年へ向かう競争そのものはすでに始まっている。
中村敬斗、鈴木彩艶、上田綺世、前田大然、旗手怜央、冨安健洋のように代表で経験を重ねてきた選手も、その立場が4年間保証されているわけではない。佐藤龍之介、石渡ネルソン、後藤啓介、佐野航大、中村草太ら若い世代にとっては、新天地での飛躍が代表への扉を大きく開く可能性がある。そして伊藤敦樹のように、一度代表から離れた選手にとっても、クラブでの活躍によって再び競争へ加わるチャンスは残されている。
もちろん、今夏に新天地を選んだ日本人選手は彼らだけではない。そして、移籍そのものが成功を意味するわけでもない。重要なのは、その先だ。
新しいクラブでポジションを掴み、試合に出て、結果を残す。その積み重ねの先に日本代表があり、さらにその先に2030年W杯がある。
次のW杯を目指す競争は、次の代表戦から始まるのではない。それぞれの選手が新しいユニフォームを着て戦い始めたクラブのピッチで、すでにスタートしている。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。






















