J未経験の欧州日本人にない「確固たるルーツ」 多数存在する”再挑戦”…国内リーグが担う「母港の役割」

町田の中山雄太【写真:徳原隆元】
町田の中山雄太【写真:徳原隆元】

セルビア1部レッドスター・ベオグラードへ移籍の中山雄太

 中山雄太は天皇杯2回戦、いわてグルージャ盛岡との試合後に報道陣の前に現れた。囲み取材という形ではなく、メディアに対して「これまでありがとうございました」と言うために顔を出したのだ。

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 18歳で柏のトップチームデビューを果たした中山は19歳でレギュラーに定着。21歳でオランダのズヴォレに完全移籍する。25歳でイングランド・チャンピオンシップのハダースフィールドに移籍し、2022年カタールワールドカップのメンバーに選ばれたが、発表の翌日、アキレス腱を断裂し長いリハビリを余儀なくされた。

 27歳でハダースフィールドとの契約が満了となり、町田に加入する。町田では移籍3日後にCKからヘディングでゴールを奪ったり、2025年8月にはミドルシュートが月間ベストゴールに選ばれたりするなど、守備面だけではなくチームに貢献した。そして29歳の今、ふたたびヨーロッパの荒野に向けて旅立つ。

 これまでも海外に挑戦し、一度は日本に戻ったが、再びチャレンジに出た選手は多数存在する。町田で言えば、西村拓真がそうだ。仙台からCSKAモスクワ、ポルティモネンセと渡り歩き、帰国して仙台、横浜FMでプレーしたのち、スイスのセルヴェットへともう一度彼の地を目指した。

 その後帰国して横浜FM、町田でプレーしているが、やはりプレーは卓越している。ケガから復帰した8月15日の千葉戦ではさっそく得点を奪うと、続く23日の浦和戦でも2試合連続ゴールを決めてみせた。海外で積んだ貴重な経験をプレーで見せてくれている。

 現在のリーグにも複数回ヨーロッパに挑戦した選手がいる。FC東京の橋本拳人はロシアのロストフに渡ったがロシア・ウクライナ情勢のために神戸に移籍。その後スペイン2部のウエスカとエイバルを経て、再びFC東京に戻ってきた。今シーズンはケガも癒えて中盤で厳しいプレーを披露している。

 井手口陽介もG大阪からスペイン2部のクルトゥラル・レオネサ、ブンデスリーガ2部のグロイター・フュルトでプレーし、G大阪に復帰。そして再びスコットランド・セルティックに渡ったあと、福岡、神戸でプレーしている。いぶし銀のプレーは健在だ。

 G大阪で言えば宇佐美貴史もそうだ。ドイツのバイエルン、ホッフェンハイムを経験してG大阪に戻ったが、アウクスブルク、フォルトゥナ・デュッセルドルフ、そしてまたG大阪でプレーするようになった。

 彼らの渡欧は決して失敗のまま終わっていない。たとえヨーロッパで実績を残せなかったにしても、彼らの得たものはプレーに反映され、そしてそれが周りに影響を及ぼしているのだ。

 同様のキャリアを積んだ大久保嘉人氏、家長昭博らが日本のサッカーに多大な貢献をしている。レジェンド・パイオニアと言える小野伸二氏にしても、浦和、フェイエノールト、浦和、ボーフム、清水、ウェスタン・シドニー、札幌、琉球、札幌と多くのクラブを渡り歩き、貴重な体験を語り継いでくれた。

 これらの例から、何度も海外に挑戦し、そして戻ってプレーできる環境というのが日本のサッカーにとって重要だということがよく分かる。ただし、ここで問題になるのが、戻って来やすい選手と、そうでない選手に分かれるのではないかという点だ。

 今、Jクラブでの経験を経ないで海外に渡航する選手が出てきている。高校や大学からそのまま海外に渡る選手だ。彼らが複数回、ヨーロッパのトップリーグに挑戦する例は少ない。

 彼らには、プロとしての第一歩を踏み出し、苦楽を共にしたサポーターやクラブという「確固たるルーツ」がない。自分が帰るべきホームがあるからこそ、選手は恐れることなく異国の地で二度、三度と限界に挑むことができるのではないか。

 Jリーグが単なる「海外へのステップアップの場」ではなく、傷ついた戦士を癒やし、再び戦場へと送り出す「母港」としての機能を持つこと。それこそが、これからの日本サッカーの成熟において最も重要な役割になるはずだ。

 中山は最後に「日本代表に戻りますから! 日本代表で会いましょう!」と言って去って行った。その場所もまた、「母港」であってほしい場所だ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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