札幌U-18の昇格断り…決意の名門校進学 手術受けて9か月離脱も「高卒プロは諦めていない」

市立船橋高の佐々木瑛汰【写真:安藤隆人】
市立船橋高の佐々木瑛汰【写真:安藤隆人】

市立船橋の3年生FW佐々木瑛汰「自分がやるべきことをやれるかどうか」

 夏を超えて強くなる―。

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 これから始まるリーグ後半戦、そしてその先の全国高校サッカー選手権予選、日本クラブユース選手権などを見据えて、各チームは遠征を繰り返しながらチームと個人の強化を行なっている。ここでは『成長の夏』を誓う高校生たちにスポットを当てていきたい。

 今回は名門・市立船橋の3年生FW佐々木瑛汰について。昨年、主軸として攻撃を牽引していた注目アタッカーは、昨年11月に負った大怪我から復活の時を迎えようとしている。

 昨年11月の全国高校サッカー選手権千葉県予選。市立船橋は準決勝で延長戦の末に3-4で最大のライバル・流通経済大柏に敗れ、全国への道を断たれた。その試合からわずか1週間後、練習中の接触から佐々木は右膝を負傷。診断は前十字靭帯断裂だった。

 幸い、半月板損傷までは至らなかったが、手術を受け、全体練習復帰までに要した時間は約9か月。高校生活最後の1年を迎える直前に長期離脱を余儀なくされたが、佐々木は現実を冷静に受け止めた。

「流通経済大柏戦ではいいプレーができていた。結果は悔しかったけど、変なプレーをして怪我をしたわけではなかったので、それは仕方がないと受け止めました」

 瞬間的なスピードと相手をしっかりと見た上で繰り出されるドリブルは強烈な武器で、相手のプレスの矢印を巧みに折りながら前進し、ラストパスやフィニッシュで質の高いプレーを見せる。

 北海道コンサドーレ札幌U-15からU-18の昇格を断って、「中2の時に全国選手権をテレビで観て、自分も出たいと思った」と憧れの高校サッカーに進むことを決めた。そして、数ある強豪校からのオファーの中で「誰もが名前を知っているし、守備強度など自分に足りないものを磨けると思った」と市船の門を叩き、1年生から出番を掴み取った。

 昨年のプレミアリーグEASTでは2ゴール2アシストをマーク。流通経済大柏戦では1-3になってから反撃の狼煙を挙げるゴールを叩き込み、その後同点に追いついた。結果は延長戦で決勝弾を浴びたが、緩急がついたスピードと鋭い突破は延長後半に交代をするまで相手を苦しめ続けた。

 手応えはあった。それだけにここから最終学年に向けてさらなる成長を期した直後の大怪我。一見すると大きなショックに見舞われたのかと思いきや、佐々木は立ち止まった時間をマイナスだけでは捉えなかった。

「怪我をしてしまった時はもちろん悔しかったですが、思いのほか早く切り替えることができたんです。怪我をする前は毎日サッカーをやっていたので、時にはメンタル的に落ちてしまうこともあったし、あのまま怪我をしないで過ごしてもそういう時期はあったと思います。でも、一度外から見ないといけない状態になって、冷静になれたというか、自分は何をしないといけないのかを考える時間が増えました」

 ボールを蹴ることが出来ない時期には腿の前後や体幹を鍛え、大臀筋などの筋力アップにも取り組んだ。目を向けたのは、これまで以上に怪我をしにくい身体を作ること。そして長いリハビリの中で、当たり前だった一つ一つのプレーに喜びを見出すようになった。

「走れるようになって、そこからグラウンドに出てパス、リフティングと少しずつ解放されていくかのように、やれることが増えていく。それが本当に嬉しかった。今は徐々に練習参加ができるようになって、『本当にサッカーって楽しいな』と思えているし、サッカーができる喜びを味わっています」

 負傷した9か月という時間も、「やることをやっていたら、あっという間だった」と振り返る。怪我前より腿周りや上半身は一回りに太くなった。今は全体練習にも合流し、実践復帰に向けて着実にコンディションを上げてきている。

 そして、佐々木が得たものは身体の成長だけではなかった。一度ピッチの外に出たからこそ、見えたものがあった。もともと積極的に声を出すタイプではなかったが、外からチームを見続けたことで、声をかけることの重要性にも気づいた。

「声を出さないよりは、出した方が絶対にいい。じゃあ自分も出そうと思っています。もっと気づきを持って過ごさないといけないなと」

 さらに偶然、南野拓実(ASモナコ)が北中米ワールドカップでサポートメンバーとして何をしてきたのかを耳にした。南野は森保ジャパンの主軸でありながら、佐々木と同じ前十字靭帯断裂の怪我を負い、本大会メンバーに入ることが出来なかった。しかし、サポートメンバーとしてチームの勝利のために献身的な立ち振る舞いを見せながら、自身の復帰に向けて懸命にリハビリを続けた。

 市立船橋のOBである鈴木唯人が出場し、佐々木も注目していたW杯の裏で、自分と同じ境遇の南野が見せた姿勢。「僕が言うのも何ですが、少しだけ気持ちが分かります」と口にした佐々木は、自らの9か月間を振り返った。

「リハビリやサッカーへの向き合い方はしっかりできたと思う。でも、仲間へのサポートをちゃんとできていたかと聞かれたら、時には『膝が痛い』と言って、きちんとやれていなかった部分があったと思うし、正直もっとやれることはあったと思います。声かけだったり、サポートだったり、もう少しやるべきだったなと思いました」

 反省もあるが、気づくことが出来たことが何より大きな前進だった。現在は練習でキレやスピード感を取り戻しつつあり、次に待っているのは実戦復帰だ。

「最初はセカンドチームからのスタートになると思いますが、徐々にプレー時間を増やして、トップで試合に出ることが出来たら、(プリンスリーグ関東1部)後期だけでも得点を量産して、(後期の)得点王になりたいです」

 明確に前を見据えている佐々木は、進路に対してもしっかり向き合っている。

「まだ高卒プロは諦めていないです。もちろん、大学経由でのプロも道としてあります。いずれにせよ、プロ、大学ではすべて自分次第。どういうサッカーをするかではなく、自分がやるべきことをやれるかどうかだと思っています」

 高校最後の1年の大半を奪った大怪我。それでも佐々木は、その時間を決して空白にはしなかった。身体を作り直し、サッカーができる喜びを知り、ピッチの外にいる人間にも果たせる役割があることを知った。

 だからこそ、再びピッチに立った時には責任を持つ。9か月間で蓄えたものをすべて解き放つ時が、もうすぐやってくる。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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