W杯アフリカ勢の躍進支える「育成への投資」 海外指導者が語る背景…際立つ母国愛「辞退考える選手いない」

ザンクトペルテンに在籍するモラス雅輝氏
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その問いに「アフリカ」と答える人は多いのではないだろうか。出場9か国中8か国が決勝トーナメントへ進出し、モロッコはベスト8まで勝ち残った。エジプトも準優勝国アルゼンチンをあと一歩というところまで追い込んだ。
これまで「能力は高いが、組織力や安定感に課題がある」と評されることも少なくなかったアフリカ勢が、今大会でそのイメージを大きく覆したのではないだろうか。高い身体能力だけではない。規律ある守備、洗練された戦術理解、そして勝負どころで力を発揮する逞しさ。彼らは確実に新たなステージへ進んでいる。
では、何が変わったのか。浦和レッズとヴィッセル神戸でアシスタントコーチを務め、オーストリアを中心に20年以上の指導者歴を持ち、現在オーストリア2部ザンクトペルテンでテクニカルダイレクター、育成ダイレクター、U18監督と様々なタスクを兼任しているモラス雅輝は最近エジプトへ視察に行き、その背景について感じたことがあった。
「フィジカルの強さや個々の能力は昔から言われていました。でも今回は守備組織の規律も含めて、本当に完成度が高かったですよね。以前のような、もっと自由奔放に前へ前へ行ける時は強いけど、粘り強さやチームとしての団結力にもろさがあるというようなイメージではなくて、しっかりスペースを埋めながら、自分たちの強みを生かして戦っているチームが多かった印象があります」
大きくうなずきながら、モラスはこう続けた。
「一つ大きいのは育成への投資だと思います。特にモロッコやエジプトをはじめとする北アフリカ、アラブ文化圏の国々では、フランスサッカーの影響を受けながらアカデミーへの投資がどんどん進んでいます。もちろん南アフリカやカーボベルデのように、また違う形で選手を育てている国もあります。全体の育成システムが完璧かと言えばそうではありませんが、それでも次々とタレントが出てくる。国によって環境は違いますが、育成レベルそのものが確実に上がってきているんです」
かつては「才能のある選手が偶発的に現れてくる」という印象が少なからずあったアフリカだが、今は育成システムそのものが進化しており、その積み重ねが、今大会の結果につながったと見る。
もう一つ、大きな要因としてモラスが挙げたのが、ヨーロッパ育ちの選手たちの存在だった。
「今のアフリカ代表にはフランス生まれ、フランス育ちの選手が本当に多いですよね。統計の一つによると今大会に出場した選手のうち90人がフランス代表でのプレー資格を有する選手だったとか。つまりアフリカの国籍を持っていても、実際にはヨーロッパで育成を受けてきた選手が非常に増えています。だから身体能力だけではなくて、ヨーロッパ的な戦術理解や考え方を持ってプレーしている選手が今まで以上に多いんです」
もちろん、南アフリカのように歴史的背景が異なる国もある。それでも全体として見れば、ヨーロッパで育った選手がアフリカ代表を選択する流れは年々強くなっているという。
「だから今回見えた組織的な戦いも、決して不思議ではないんです。アフリカ特有の身体能力や個性に加えて、ヨーロッパで学んだ戦術理解が加わる。そうなれば当然強くなります」
しかし、モラスが今大会を通して最も印象に残ったというのは、ピッチ上のプレーではなかった。代表という存在への向き合い方だった。
「僕が今まで知り合ってきたヨーロッパ生まれ、ヨーロッパ育ちのアフリカ代表選手って、本当に母国への愛情や情熱、誇りが強いんですよ。そこはすごく面白いなと感じています」
その背景には、自身が昨年エジプトのクラブで研修した経験もある。
「エジプトでいろいろ話を聞いたんですけど、例えばモハメド・サラーはリバプールではレジェンド級の存在ですよね。でも代表に戻ってきて、比較的無名な国との試合でもものすごいプライドを持ってプレーするんです。『クラブでスタメンを失うかもしれないから代表は辞退したい』というような議論は、本当に聞いたことがありません」
浦和レッズ時代に監督・コーチの関係性だったフォルカー・フィンケが、かつて指揮していたフライブルクでもそうだったという。
「当時のフライブルクにはマリ代表やチュニジア代表、ブルキナファソ代表の選手がたくさんいました。フィンケさんはよく、『代表を辞退しようと考える選手はいない』と言っていました。母国愛が本当にすごい、と」
だからこそ、アフリカ選手にとってアフリカ選手権はとても大きなイベントなのだ。辞退なんてありえないとさえみんなが思っている。ヨーロッパで生まれ育った選手であっても、母国代表を選び、全力を尽くす。その強い帰属意識もまた、今のアフリカサッカーを支える一つの力になっている。
これは代表という存在がもつ意味を考えさせられるとともに、政治的な解釈をするべきではないテーマではないだろうか。自分のルーツや家族、国民の期待を背負うこと。その誇りと愛情は人を結びつけ、大きな力をもたらす礎ともなる。
もちろん、課題がなくなったわけではない。アフリカサッカーは長年、協会運営の問題に苦しんできた。勝利ボーナスを巡る対立やスポンサー資金の不透明な管理など、実力とは関係ない部分で足を引っ張られるケースも少なくなかった。
「アフリカサッカーの一番の問題は昔からピッチ外なんです。今回も多少はありましたけど、以前ほどではありませんでした。僕が聞いたところでは、プーマやアディダスのようなサプライヤー企業も、『ちゃんと運営しないと支援できない』という姿勢を取るようになっています。お金を出している企業には発言力がありますし、現地で働く人たちも変えなければいけないという意識を持っています。エジプトでも、若い選手を育てて、いつかワールドカップでさらに上を目指したいという話をたくさん聞きました」
だからこそ、モラスは「アフリカの躍進は偶然ではないし、学べること、参考になることがたくさんある」と見る。
「日本はスペインを見る、あるいは今回躍進したノルウェーを見る。それはもちろん大事です。でも、これまであまり注目していなかった国が一気に伸びてくることもあります。アフリカ勢はそうだし、アジア勢であれば今回ウズベキスタンが初出場を果たしました。ここから育成やインフラ整備が進むかもしれません。クラブレベルで見ても、これからは新しいマーケットにも目を向けていかなければいけません。時代は常に変わっていくんです」
世界の勢力図は、静かに変わり始めている。そして、その変化は日本サッカーにとっても、世界を見る視野を広げるきっかけにしなければならない。(敬称略)
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。























