元日本代表DFがぶつかった「左サイドの壁」 重ねた試行錯誤…今は純粋に「サッカーが楽しい」

柏の杉岡大暉【写真:徳原隆元】
柏の杉岡大暉【写真:徳原隆元】

柏レイソルの開幕2連勝を支えたDF杉岡大暉

 明治安田J1リーグ第2節・東京ヴェルディvs柏レイソルの一戦。開幕戦で2-1の勝利を収めた柏は、この試合でもボールポゼッションと連続攻撃を駆使して3-1の勝利を掴み、開幕2連勝を飾った。目についたのが柏の3バックの左に入ったDF杉岡大暉だ。

 プロ10年目を迎える27歳の左利きのDFは、得意の対人に強い守備をベースに、左足の正確な縦パスやフィードでビルドアップのポイントを作り、タイミングを見た攻撃参加で連続攻撃をサポート。縦への積極的なスライド、3人目の動きなど前への推進力は目を見張るものがあった。2017年に湘南ベルマーレに加入し、高卒ルーキーながら主軸に定着してから3年間、左CB、左ウィングバックとしてルヴァンカップ優勝、日本代表にも選ばれるなど、チームの顔になった頃の躍動感を覚えた。

 もちろんあの頃に戻ったわけではない。スピード感、ポジショニングやパス1つ1つの質は確実に増しているし、何より経験を積み重ねた円熟味を感じる。

 この感覚がどうしても気になり、試合後に話を聞くと、円熟した理由がはっきりと分かった。

「壁にぶつかったというか、そういうのは感じました」

 直面し始めたのは鹿島アントラーズに完全移籍した2020年からだった。高卒からプロ3年目まで順風満帆に見えたキャリアだったが、その後には長い試行錯誤の日々が待っていた。常勝を求められる強豪クラブでさらなる飛躍を目指したが、思うように出場機会を掴むことができなかった。

「プロに入ってからずっと3バックをやってきた中で、4バックの左サイドバックになった時に思うようなプレーができなくなったんです。ビルドアップの中で相手がサイドバックの位置でボールを奪いに来る中で、ハマってしまったり、パスの出しどころを見失ってしまったり、武器である前への推進力が出せなくて戸惑ってしまったんです」

 前へ、前へという意識は強いが、ボールを受けた時には相手の前からのプレッシングの狙いどころになってしまっている。これはCBやウィングバックでは経験しなかったことだった。持ち前の前への推進力が思うように出せない。この壁に苦しみ、鹿島では2シーズンを過ごしてリーグ14試合出場に留まった。

 思うような出番を掴めないまま、2021年夏に湘南へ期限付き移籍で復帰。湘南では監督が変われど、縦にアグレッシブなスタイルを継承していたため、自身の182センチの強靭なフィジカルと豊富な運動量を生かして左サイドを上下したり、CBの位置から前に持ち出したり、得意の左足を生かすスタイルがマッチ。3バックの左ウィングバック、左CBとして再び主力としてプレーし、2023年には完全移籍に移行した。

 しかし、2024年シーズンは一気に出番が減り、7月にはFC町田ゼルビアへの期限付き移籍を決断した。だが、町田も4バック。鹿島の時と同じように左サイドバックとしての壁にぶち当たった。コンスタントに出番を得ることはできたが、2度目の壁に向き合うメンタリティーは鹿島時代とは違った。

「自分の現実と向き合い、課題を克服する時間だと捉えることができました。自分の課題と苦手意識をしっかりと自分の中で整理をして、じゃあどうするべきかを試合の中で考えながらトライすることでした。相手にとってどの立ち位置が嫌なのか、出し手にとって助かるのか。一番感じたのは僕がいい位置に居れば、相手は自分を消しに来る。そこで無理に受けようとしなくても、その分味方が空くので、そこに促してから次に自分がボールを受けたり、サポートに入ったりすることを考えて動く。逆に消しに来なかったら自分が受けて仕掛けるなど、もしかすると単純なことなのかもしれないけど、僕の中では非常に大きな気づきを得ることができた。個人ではなく、チーム全体としてどうやって円滑にビルドアップで前進をしていくのかを考えて、自分のプレーをアジャストできるようになったんです」

 左サイドバックとしての立ち位置の取り方、ボールを受けるタイミング、そしてプレスの回避方法などを試行錯誤しながら、大きな気づきを得て、ワンランク上の局面打開の思考力と判断力を磨き続けた。

柏の杉岡大暉【写真:徳原隆元】
柏の杉岡大暉【写真:徳原隆元】

新天地柏で見出した意図を持ったプレー

 そして、2025年に柏レイソルに完全移籍。ここでリカルド・ロドリゲス監督と出会ったことで、彼がこれまで積み重ねてきたものがカチッとハマった。

 ボールを保持しながら相手を動かし、選手同士が立ち位置を変化させながら前進していくリカルドのサッカー。その中で求められるのは、ポジションに縛られることではない。どこに立つのか。いつ前に出るのか。どのスペースを空けるのか。味方と相手の立ち位置を見ながら判断を繰り返していく。
「湘南とはまた別の意味で前へ積極的に行く。最初は戸惑いましたが、町田でトライしていたことがレイソルのサッカーで生かされている手応えを感じました」

 かつて壁にぶつかったことで考え続けてきたことが、柏で1つ1つつながり始めた。

 移籍1年目は怪我もあり、離脱中にチームの骨格がある程度固まったことで思うような出番は掴めなかったが、今年の明治安田J1百年構想リーグでは17試合に出場し、京都サンガF.C.とのプレーオフでは2戦ともスタメン出場。第1戦ではゴールもマークし、最終ラインの一角として存在感を高めていった。

 そして迎えた2026-27シーズン、開幕戦でスタメンの座を掴むと、立ち位置の優位性を生かしたビルドアップへの関与と積極的な縦パスで、攻撃のスイッチを入れる役割をこなしながら、守備面でも安定感を発揮。開幕戦の相手である水戸ホーリーホックのDF真瀬拓海(市立船橋高時代のチームメイト)も、「マッチアップして感じたのは、キックだけでなく、ポジショニングでも僕らの前へのベクトルを折るプレーが本当にうまくて、本当に脅威だった。確実にうまくなっていた」と舌を巻くほどの躍動を見せた。

 第2節の東京V戦でも最終ラインから効果的なパスやランニング、多彩なビルドアップへの関わりを見せ、3-1の勝利と開幕2連勝に貢献。その姿はまさにルーキー時代の躍動感と、経験を積んだ円熟味を同時に感じさせるものだった。

「チームとして百年構想リーグで苦しんだ分、その反省点を生かしてリカルド自身もより攻撃的なサッカーを志向しているからこそ、僕もそこにアジャストしていかないといけない。それに百年構想までは右サイド偏重、右肩上がりの戦い方をしていて、左でバランスを取っている部分があったのですが、今季は右肩上がりにもなるし、左肩上がりにもなる。左肩上がりになった時にどう関わるかも意識してできています。前には(遠藤)渓太くんもいるし、ボランチもシャドーもボールが持てる選手が多いので、僕が何かをするというより、周りに対して僕がスペースと時間を与えられたら、必ず何かをしてくれる。自分がボールを持っていなくても『サッカーが楽しい』と感じられているのが今ですね」

 かつては持ち前のパワーや推進力を前面に押し出していた男が、周囲を見て、相手を見て、ピッチ上で起きている現象から答えを探すようになった。

 若くして湘南の主力となり、日本代表まで駆け上がった杉岡にとって、鹿島で出場機会を失った時間も、町田で新たなスタイルに適応しようともがいた時間も、決して望んでいたものではなかったはずだ。

 しかし、そこでぶつかった壁に目を背けなかったからこそ、自分の武器だけでサッカーをするのではなく、相手を見て、味方を見て、立ち位置によって局面を動かすことを考えるようになった。

『なんとなくの感覚』でやっていたものが、今は自分の中で整理され、意図を持ったプレーへと変わりつつある。一直線に駆け上がっていた若き日の杉岡から、いくつもの壁を越え、考えながらサッカーをする杉岡へ――。

 遠回りに見えた時間は、決して無駄ではなかった。その経験すべてを携え、柏で迎えるこれからのキャリアは、まだまだ面白くなりそうだ。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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