199.5センチの逸材GK「全部足で」 技術不足→”偶然”に無二の武器へ「そこに甘えずに」

湘南U-18の静野空登【写真:安藤隆人】
湘南U-18の静野空登【写真:安藤隆人】

湘南U-18の3年生GK静野空登

 夏を超えて強くなる―。

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 これから始まるリーグ後半戦、そしてその先の全国高校サッカー選手権予選、日本クラブユース選手権などを見据えて、各チームは遠征を繰り返しながらチームと個人の強化を行なっている。ここでは『成長の夏』を誓う高校生たちにスポットを当てていきたい。

 今回は8月6日から10日にかけて石川県で開催された和倉ユースサッカー大会に出場した湘南ベルマーレU-18の3年生GK静野空登について。

 一度ゴールマウスの前で両手を伸ばせば、手の先はバーの上にある。身長199.5cm。圧倒的な高さに目を奪われるGKにとって、この夏は『反撃の夏』だった。

 集合写真を撮る際に1人だけ頭が抜けていた。ゴールマウスに立つ姿は圧巻で、両手を広げればゴールは小さく見える。

 和倉ユースで圧倒的な存在感を放ち、度重なるビッグセーブとハイボール処理でベスト4進出に貢献した静野だったが、これまでは思うようにスタメンの座を掴めない日々が続いていた。

 高校1、2年時はほとんどCチームで過ごし、トップで出場機会を得ることはなかなかできなかった。3年生になっても1学年下のGK中村勇翔の後塵を拝し、ピッチが遠かった。

「思うように身体が動かない時期があったり、課題のビルドアップ面での質の問題だったり、本当に苦しいなと思うことが続きました」

 静野の身長は、小学1年生時ですでに約146cm。小学6年生で180cmに達し、中学1年生で187cm、2年生で194cm、3年生では197cmまで伸びた。高校に入ってからもさらに伸び、現在は2メートル目前だ。これだけ急激に身体が大きくなれば、身体操作に苦しんでも不思議ではない。

 新潟市出身の静野が本格的にサッカーを始めたのは意外にも遅く、小学4年生の時だった。それまではサッカークラブやその他の運動クラブなどには一切所属せず、近所の公園で友達とサッカーをして遊んでいたに過ぎなかった。だが、運動能力が高く、身長的にアドバンテージを持っていた彼に、友人がサッカーを本格的にやることを勧め、その友人が所属していたFCドリーム新潟に入った。入ってすぐにGKのポジションを与えられ、GK人生がスタートした。

 だが、当然最初は素人同然で、足元の技術不足はもちろん、ダイビングもできなかった。

「ゴロでキャッチできるボールも手で行かなくて、全部足で行っちゃっていたんです」

 そこから徐々にGKとしての基礎を教えてもらったが、結果としてこの足で行く感覚がGKとしての自分の武器になるとは、当時は知る由もなかった。

 中学はF.THREE U-15へ。その圧倒的なサイズは周りからの注目を集め、中学1年生の夏には早くも湘南U-18から声がかかった。ベガルタ仙台ユースなど複数のJクラブユースから誘いを受けたが、「湘南が最初に声をかけてくれた」ことが決め手となり、中学卒業と同時に新潟を離れて湘南U-18の寮に入った。

 前述した通り、ここからも順風満帆だったわけではない。止まらない身長の伸びに苦しみながらも、湘南U-18の池村彰太GKコーチと共に徹底的にシュートブロックを磨いてきた。

「池村コーチから『自分の身体の大きさを最大限に生かせる距離まで相手との間合いを詰めろ』と言われ、そこを意識してきました。自分はでかい分、相手がゴールに近づいてきても広い範囲でシュートに対応できる。自分が勝負できる距離感まで詰めてブロックすることを習慣づけてもらいました」

 この時に生きたのが足でのブロックだった。大型GKは身体を折りたたんで足を出す動作がスムーズに行かず、どうしても足が出るスピードが遅くなったり、反応が遅くなったりしてしまう。だが、小学生の頃に無意識にやっていた足でのブロックは、サイズがより大きくなってもスムーズに出せて、いつしか自分の強みになっていた。

 そして迎えた和倉ユース。ついに彼にスタメンのチャンスがやってきた。決勝トーナメント初戦の矢板中央戦をクリーンシートに抑えると、準決勝の日大藤沢戦ではビッグセーブを連発。実に4度の1対1を全てタイミングの良い飛び出しと、肩の力の抜けた構えからスムーズに足を出して完全にブロックしたシーンは圧巻の一言だった(試合は0-0からのPK戦の末に敗退)。

 川崎フロンターレU-18との3位決定戦でもスタメン出場を果たして安定したセーブを見せ、静野にとって自分の実力を示すことができた大会となった。

「課題だったビルドアップでも落ち着いてボールを回すことができて自信になった」と大きな手応えを掴んだ。

「まだポジションを掴んだわけではないので、本当にこれからです。このサイズは注目してもらえるので、そこに甘えずに相手の動きやボールの動きを見て、予測しながらのステップワークや母指球に力を入れて前に踏み出すなど、より自分を大きく見せられるように努力していきたいと思います」

 199.5cmというサイズは、誰もが手にできるものではない。しかし、それだけでゴールを守れるほどGKというポジションは甘くない。それは彼自身がよく理解している。決してサイズに任せたセーブではない。考え、相手を誘導し、距離を測った上で、199.5cmの身体を使う。

 小学4年生でGKを始め、ダイビングができなかったから足でボールを止めた少年は、成長する身体と向き合いながら、その偶然を自らの武器へと変えてきた。そして高校最後の夏、ようやくその巨大な可能性が形になろうとしている。だからこそ、ここで掴んだ自信を手放さないように、これまでと同じように積み上げていくのみ。

 2mまで、あと5mm。だが、静野空登がこれから伸ばそうとしているのは、もう身長ではない。未来で躍動する自分を実現するための技術だ―。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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