震災直後、夕食時に誓った日本一「熊本に勇気を」 掴んだ4強…響いた仲間の叫び「環境に感謝しよう」

準決勝を決めた大津イレブン【写真:安藤隆人】
準決勝を決めた大津イレブン【写真:安藤隆人】

震災のニュースに大津のキャプテン・渡辺友翔「強い気持ちを持って試合に臨もう」

 インターハイ準々決勝・大津(熊本)vs桐蔭学園(神奈川)の前夜、宿舎での夕食時。山城朋大監督は選手たちの前に立ち、静かにこう語りかけた。

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「自分たちがこの環境でサッカーができることは当たり前じゃない」

 その言葉に、選手たちは真剣な眼差しを向けた。キャプテンのDF渡部友翔は「みんなの心に響いたと思う。間違いないからこそ、僕らは団結して戦わないといけないと思った」と振り返る。指揮官の思いは、確かにチーム全員へと伝わった。

 7月28日、熊本県を震源とする最大震度7の地震が発生した。県内では各地で被害が確認され、多くの人が不安な時間を過ごすことになった。福島県でインターハイを戦う大津のメンバーの多くは熊本県出身。その知らせはチームにも大きな衝撃を与えた。

「僕もみんなも家族や親戚、友達などに連絡を取り合っていて、みんな心配を抱えている姿を見ました。でも、みんなで『日本一を取って、熊本の人たちに勇気を与えられるようにしよう』と話し合った。熊本にいる僕のお父さんや親戚の人たちも『今日の試合(桐蔭学園戦)も見るよ』と言ってくれていたので、強い気持ちを持って試合に臨もうと思いました」

 幸いにも、選手たちの家族や身近な人たちからは無事の知らせが届いた。しかし、実際に被害を受けた人たちがいることに変わりはない。不安や安堵、さまざまな思いが交錯する中で、チームの気持ちは一つになっていった。

 試合前のアップ中には、負傷のためベンチ外となった3年生GK栗原聖央が仲間たちへ大きな声をかけた。

「サッカーができる環境に感謝しよう! 熊本の人たちが苦しんでいる中でも、自分たちは勝つことで勇気づけられるっていうのを、全員が頭の中に入れてプレーしよう」

「聖央の言葉でもう一度スイッチが入りました」と熊本出身のCB木下斗稀が語ったように、選手、スタッフが一体となって試合へ臨んだ。そして後半4分、MF西本瑛司が奪った決勝ゴールを全員で守り抜き、1-0で勝利。2大会連続のベスト4進出を決めた。

「勝つことしか頭の中になかった。熊本に戻れない分、僕らがここで少しでもいい結果を残して、熊本の皆さんにいいニュースを届けることが大事だと思っています」(木下)

 もちろん、彼らが必要以上のものを背負う必要はない。それでも、サッカーができることへの感謝を胸に刻み、目の前の一戦に全力を尽くす。そのひたむきな姿は、きっと多くの人の心に届く。選手たちを見つめながら、平岡和徳総監督はこう語った。

「つらいという思いはあると思うけど、現実は現実。『艱難汝を玉にす』。こういうことを乗り越えて今がある。ここで人とのつながりや地元への思いを胸に刻み、周りを大切にして、今やるべきことをやる。ここで選手たちは一つ逞しくなると思うし、何よりみんなで熊本の人たちに明るいニュースを届けていきたいですね」

 平岡総監督の実家は震源地に近く、被害も受けた。それでも選手たちに温かい眼差しを向け続けた。山城監督も選手たちの心情に最大限配慮しながら、自分たちが今ここで戦う意味を真摯に伝えた。そして選手たちもその思いを共有し、それぞれがプレーで表現した。

 準決勝まであと2日。相手は静岡学園。熊本への思いを胸に、彼らはもう一度ピッチへ立つ。サッカーができることへの感謝を、70分間のプレーで示すために。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチ。

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