主役を奪った大統領のW杯政治介入「トランプの大会」 極端な商業主義、ルール無視…「何でもあり」への嘆き

北中米W杯でトランプ大統領に行動が物議【写真:ロイター】
北中米W杯でトランプ大統領に行動が物議【写真:ロイター】

北中米W杯は「大成功だとは思えない」

 後味のいい大会ではなかった。半世紀以上W杯を見てきたけれど、これほどモヤモヤの残った大会はない。スペインの2度目の優勝で幕を閉じたが、最後まで不快だった。選手への、サッカーへの「リスペクト」を感じない大会だったからだ。

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 大会のフィナーレを飾る表彰式、大ブーイングのスタンドに手を振りながら、トランプ大統領が現れた。優勝トロフィーを選手に渡した後も壇上を降りようとせず、周囲の誘導も無視して強引に「トロフィーリフト」に参加した。昨年のクラブW杯に続く暴挙に世界中がドン引きした。

 主役のはずの選手が忘れられ、サッカーが二の次にされた感じがした。大会前から多くの問題点が指摘された。政治問題とともに「行き過ぎた商業化」への不安も取りざたされた。そして、それが現実となった。

 前後半の間のハイドレーションブレイク(給水タイム)は空調が効いた会場での試合も含めて義務化。「選手のため」というより「CMを入れるため」に試合の流れは無視された。150年以上「前後半制」だったサッカーが、突然「クォーター制」になった。選手はもちろん、世界中が戸惑った。

 思い切りエンタメに振り切った演出は、盛り上がったし、楽しめたのも確かだ。サッカー界のレジェンドだけでなく、俳優やミュージシャンが並ぶスタンドは壮観だった。一方でチケット代は高騰し、一般のファンは足を運びにくかったとも聞いた。「商業主義」の犠牲者は、多くのファンだった。

 極め付けは、退場処分を受けたアメリカ選手の次戦出場停止の執行が猶予された事件。トランプ大統領がFIFAのインファンティーノ会長を通じてルールを捻じ曲げた。国際法すら気にしないようだから、サッカーの競技規則など眼中にないのかもしれない。犠牲になったのは、選手とチーム、そしてサッカーというスポーツ。「何でもあり」の印象がついて回った。

 振り返れば、大会を盛り上げ、収益を増やすために人気チーム、人気選手を勝たせる力が働いたのでは、と勘ぐってしまう。アルゼンチンに対する疑惑が世界中で沸き起こった。MLSを牽引するメッシはアメリカ人にも大人気、ミレイ大統領がトランプ大統領と蜜月関係ということも、疑惑を助長した。

 準決勝のイングランド戦後「フォークランドは我が領土」の横断幕を掲げたアルゼンチンは、政治的メッセージ掲出を禁じるFIFAの処分対象になる。ところが、アメリカ政府は決勝前に「表現の自由を保証し、決勝戦後も掲出可能」と異例の声明を出した。アルゼンチン連覇の「フラグ」かとさえ思った。

 決勝戦も突っ込みどころ満載。試合前のアメリカ国歌は異例だったし、やるならば共催3か国の国歌を流すべきだろう。ハーフタイムショーもいいけれど、前後半の間は27分。「15分を超えない」と定められているルールは無視された。他にやりようはあったはず。本当に「何でもあり」だった。

 トランプ大統領と友好関係にあるアルゼンチンに対し、サンチェス首相がイラン攻撃を非難し「共犯にはならない」と断じるスペインは対抗勢力だった。結果的に延長の末にスペインが優勝。トランプ大統領の望んでいた(であろう)結果にはならなかったが、思わず「介入」を考えてしまうほどトランプ大統領の大会への関与は異常だった。

 大会自体は楽しめた。参加国数増加で、さすがに1次リーグは長く感じたけれど、決勝トーナメントに入ってからは内容の濃い試合が多かった。スター選手が評判通りに活躍して盛り上げた。決して多くはなかったが、カーボベルデなど新興勢力の頑張りも華を添えた。ピッチ内は素晴らしかった。

 引っかかるのはピッチの外だ。前回カタール大会は「メッシの大会」だった。1986年メキシコ大会は「マラドーナの大会」と言われた。今大会は「トランプの大会」だった。昨年の抽選会でチームや選手を差し置いてセンターに立ち、そのまま大会を締めくくる表彰式まで降りようとしなかった。トランプ大統領が大会を利用し、選手から主役の座を奪った。

 商業主義は賛否あると思う。FIFAが収益によって世界規模でサッカーを普及し、振興させていることも事実。サッカー自体のルールも進化はしている。ルール違反は許されないが、大会が変わっていくことは仕方ない部分はある。ただ、何より憤るのは、アメリカがイランへの攻撃を続けていたこと。「何でもあり」だとしても、これは最悪だった。

 1934年イタリア大会はムッソリーニがプロパガンダに使ったし、78年アルゼンチン大会は軍事政権が利用した。それでも、ともに戦争中ではなかった。今回は今、まさに戦争をしている国で行われた異例の大会だった。

 決勝戦前の閉会式、トム・クルーズの「この大会が世界を1つにした」というスピーチほど空虚なものはなかった。悪い冗談にさえ思えた。トランプ大統領は「大会は大成功」と言いながら、イラン攻撃の手を緩めない。大統領に贈られた意味不明の「FIFA平和賞」は、いったい何だったのか。

 戦争だから、どちらが悪いとか単純な問題でないことは分かる。それでも、会期中は世界の誰もが何の不安もなくサッカーに熱中できる大会であってほしい。観客が増え、視聴率が上がり、スポンサーがついて商業的に成功しても、この大会が「大成功」だとは思えない。本当に「世界を1つにする大会」でなければ、W杯の価値は暴落してしまう。

 見どころの多い、いい大会だったとは思う。日本代表の戦いぶりも素晴らしかったし、日本中がW杯で盛り上がり、サッカーが注目されたのもよかった。だからこそ、ピッチの外に見え隠れした「汚点」が残念でならない。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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