曺貴裁監督も「すぐに結果を出したわけじゃない」 指揮官就任も焦らず…京都が目指す“進化”「土台を作る」

京都はポポヴィッチ監督率いる新体制へ【写真:元川悦子】
京都はポポヴィッチ監督率いる新体制へ【写真:元川悦子】

ポポヴィッチ監督率いる新体制へ移行した京都

 8月7日に幕を開ける26-27シーズン・Jリーグ。93年の発足以来、「春開幕・冬閉幕」というサイクルだったリーグが、「夏開幕・春閉幕」となるのだから、各クラブともにプレシーズンの準備を手探りで行っている状況だ。

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 ガンバ大阪やサンフレッチェ広島のように欧州に赴いているクラブもあれば、名古屋グランパスや川崎フロンターレのように北海道でキャンプを実施するクラブがある一方、これまで通り、沖縄や宮崎を拠点にするところもある。今季からランコ・ポポヴィッチ監督率いる新体制へ移行した京都サンガFCも、これまで通り、沖縄キャンプでコンディションを引き上げているところだ。

「沖縄でのキャンプ実施はクラブが決めたこと。私が選んだわけではありません。ただ、非常にいい選択をしたなと思っています。見てもらっても分かる通り、環境にも恵まれていますし、その中で私の仕事は日々、いいトレーニングをして、チームを作り上げることだと思っています」と新指揮官は14日の沖縄入り後、充実感を持って活動に取り組んでいる様子だ。

 2009年の大分トリニータを皮切りに、FC町田ゼルビア、FC東京、セレッソ大阪、鹿島アントラーズの5クラブを率いた経験のある指揮官は日本サッカーやJリーグ、選手個々に至るまで熟知している。前任者の曺貴裁監督が2021年から5年半かけてどういったチーム作りを進めてきたのかも把握している。それを生かしながら、新体制へ移行できるのは、1つのアドバンテージと言っていい。曺監督とポポヴィッチ監督はどちらも強度やハードワークを重視する指導者。そこに着目したから、大熊清GMは彼を後任に据えたのだろう。

 そのうえで違いを挙げるとすると、まずは基本布陣だ。曺監督はアンカーを置いた4-3-3で戦っていたが、ポポヴィッチ監督は直近の鹿島時代を含めて4-2-3-1、あるいは4-4-2がベース。7月15日の練習を見ても、2ボランチでボールの追い込み方や立ち位置を細かく指導していた。

「曺さんの間はずっとアンカーだったんで、2ボランチをやるのはかなり久しぶり。自分が前に行ける回数も増えると思います。求められることも変わってくるし、自分もまた成長の幅が広がるかなという感覚があります」と背番号10をつける福岡慎平が前向きにコメントした通り、中盤の面々にとっては新たなトライを積極的にできる環境になりそうだ。

 今季の京都はAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)に参戦するため、シーズンの早い段階から国内公式戦との掛け持ちを強いられる。その分、豊富な選手層が求められるということ。ボランチに関して言えば、福岡に尹星俊、ジョアン・ペドロ、齊藤未月らがいて、彼らをフル回転させなければ、国内外両方で結果を残すのは難しくなる。それは他のポジションについても同じ。チーム全員がポポヴィッチ監督の要求に応えられる状態にいち早くならなければいけないというのは事実だ。

 守備のコンセプトも曺監督とポポヴィッチ監督は少し違いがある様子。右サイドバック(SB)の福田心之助がこんな話をしていた。

「曺さんとポポさんはどちらも強度を重視するという根本的なところは似てますけど、どこで強度を出すのかは違う感じがします。練習で守備の立ち位置を確認した時も、『サイドで追い込みたい』というのはずっと言っていましたから。曺さんは『もう1個、前で構えて前線で奪いきりたい』という考え方だったんで、奪いどころの高さは違うのかなと思っています」

 彼が言うように守備のポイントが異なる分、それを選手たちが迅速に理解して実践できるように仕向けていかなければならない。SBやサイドハーフの選手たちは少し戸惑いもあるかもしれない。

 それでも、外で追い込んでボールを奪ってからは、それぞれの個性を自由に出せるというメリットもある。ポポヴィッチ監督が鹿島で引き上げた濃野公人にしても、まるでFWかというくらい高い位置に攻め上がり、2ケタゴールを奪うほどの活躍を見せた。攻撃参加を武器とする福田もそのポテンシャルがありそうだ。

「今までも前への推進力を出していたし、奪ったらタテに速くというのは意識していましたけど、『奪うところの仕事をより出してほしい』とポポさんからは言われています。そのうえで『自分のスプリント力を生かしていけ』とも声をかけてもらった。自分も濃野選手みたいにゴールを狙っていけるようになれればいいなと思っています」と彼は新境地開拓に燃えていた。

 森保一監督が8年間指揮を執った日本代表もそうだったが、1人の監督が長く率いているチームは完成度が上がり、スムーズな連携連動を出せるというメリットがある反面、新たな目線でのアプローチや変革が起きにくくなる。京都もそういう傾向が多少なりともあったのかもしれない。

 ここで指揮官が代わり、選手たちに新たなエッセンスをもたらすことで、1人1人がこれまでとは違った顔を見せるようになってくれれば、チーム力もアップする。そうなるかどうかは、8月9日のV・ファーレン長崎との開幕戦からの戦いを見てみないと何とも言えないが、「曺監督のベースを生かしながら、さらなる進化を目指す」という方向で今の京都が進んでいるのは確かだ。

「曺さんは素晴らしい仕事をされていたし、ハードワークのできるいいチームを作られていたと思います。ただ、彼も京都に来てすぐに結果を出したわけじゃない。J1で3位になるまで5年かかっている。チーム作りというのはすぐに全てがうまくいくわけではないので、私もいいものをしっかり継承しながら、焦らず土台を作って積み上げていくつもりです」と新指揮官も多少、時間がかかることを覚悟しているようだ。

 ただ、ACLEに参戦する彼らにはそこまで余裕はない。どれだけチーム作りのスピード感を上げられるかがポポヴィッチ監督の重要課題になってきそうだ。2024年の鹿島では1年も経たないうちに解任の憂き目に遭ったが、同じ轍を踏まないように、彼自身もアプローチ方法に変化をつけながら、最短コースで完成形を目指していくべきだろう。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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