日本の審判のレベルは選手よりも低い? 代表より長い歴史…W杯出場への過酷な道のり

ワールドカップ2014年ブラジル大会開幕戦で主審を務めた西村雄一審判【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
ワールドカップ2014年ブラジル大会開幕戦で主審を務めた西村雄一審判【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

特にワールドカップの歴史を振り返れば、むしろ逆とも言えるのだ

 試合後、「日本サッカーの進歩のためには、審判ももっと進歩してもらわなければダメだ」という言葉をよく耳にする。確かにその通りで、審判の進歩なくしてサッカーの進歩はない。

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 だが、もしこのセリフが「日本の審判のレベルは選手のレベルよりも低い」という意味で使われているのなら、それは勘違いと言っていい。特にワールドカップ(W杯)の歴史を振り返れば、むしろ逆とも言えるのだ。

 日本の審判が初めてW杯に招集されたのは1970年メキシコ大会。丸山義行氏(故人)が2試合で線審を務めた。当時の日本代表は、1968年メキシコ五輪で銅メダルに輝いた直後だったが、ソウルで開催されたW杯予選では2分2敗で敗退している。

 このときの対戦相手は韓国とオーストラリアだった。当時は「アジア・オセアニア予選」として1枠を争う過酷な形式で、このグループからはオーストラリアが勝ち上がったものの、最終予選でイスラエルに敗れ出場を逃している。なお、イスラエルは1982年スペイン大会からヨーロッパ予選に組み込まれることになる。

 つまり、日本代表がまだ1次予選で敗退していた時代から、日本の審判は世界の大舞台に立っていた。そして、2人目の日本人審判として1986年メキシコ大会に招集されたのが高田静夫氏だ。当時アジアから選ばれた審判はわずか3人。そのなかで高田氏は、日本人として初めて主審として1試合(スペインvsアルジェリア)を担当し、線審(現・副審)としても2試合を務めた。

 この大会の予選で、日本代表もようやくアジア最終予選まで進出した。しかし、韓国を相手にホームで1-2、アウェイで0-1と連敗。選手と審判の「アベック出場」はあと一歩で届かなかった。

 高田氏は1990年イタリア大会にも連続で招集され、ユーゴスラビアvsUAEで主審を務めた。当時のユーゴスラビアを率いていたのは後に日本代表監督となるイビチャ・オシム氏(故人)であり、背番号10はドラガン・ストイコビッチだった。高田氏はこの大会で、線審を3試合、予備審判(現・第4の審判)を3試合務めている。

 一方、日本代表は1990年大会は1次予選敗退。1994年アメリカ大会では「ドーハの悲劇」により土壇場で初出場を逃した。また、この1994年大会には日本の審判も招集されなかった。

 待望の瞬間は1998年フランス大会に訪れる。日本代表と日本の審判が、初めて本大会にそろい踏みしたのだ。「ジャスティス」の愛称で知られた岡田正義氏は、イングランドvsチュニジアを毅然と捌ききった。

 それ以降、日本代表と審判はともにW杯の常連となった。2002年日韓大会と2006年ドイツ大会には上川徹氏が選出。2002年はアイルランドvsカメルーン、2006年は3位決定戦のドイツvsポルトガルという大役を含む3試合で主審を務めた。また、2006年大会には廣嶋禎数氏も招集され、3試合で副審として活躍した。

 2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会では、西村雄一主審、相樂亨副審、名木利幸副審の「セット」が躍進した。2010年は準々決勝のオランダvsブラジルを含む4試合を担当。アリエン・ロッベンを踏みつけたフェリペ・メロを退場させ、混乱するピッチを鎮めた手腕は世界的に高く評価された。その信頼の証として、西村氏は2014年ブラジル大会の開幕戦(ブラジルvsクロアチア)という大舞台を任されるに至った。

 しかし近年、日本の審判界は厳しい局面を迎えている。2018年ロシア大会では佐藤隆治主審、相樂副審、山内宏志副審が選出されたものの、主審としてピッチに立つ機会はなかった。2022年カタール大会でも山下良美氏が主審として選ばれたが、第4の審判として6試合を担当するにとどまり、笛を吹くことはできなかった。

 審判の選出には、実力以外にも複雑な要素が絡む。例えばヨーロッパ勢対南米勢の対戦では、中立な地域の審判が求められる。また、真偽のほどは定かではないが、かつては宗教的な背景を考慮し、特定の対戦カードに仏教国の審判を充てるのが好ましいという説もあった。

 2022年カタール大会で選ばれた主審36人のうち、アジア(AFC)所属は6人。山下氏はその一人だった。過去の実績を照らし合わせれば、日本は選手よりも審判のほうが早くから世界に認められ、3位決定戦のような重要局面にも関わってきた。決して「選手よりレベルが低い」などとは言えないはずだ。

 現在、日本は5大会連続でレフェリーを送り出しているが、次も選ばれる保証はどこにもない。2022年は副審やVMO(ビデオマッチオフィシャル)の選出はなく、中東勢の台頭も著しい。勝てば出場が決まる勝負の世界とは異なり、選考基準が多岐にわたる審判にとってのW杯出場は、ある意味で選手以上に過酷な道のりと言えるはずだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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