高校時代は“万能型” 日本代表はなぜ「ストライカー」になったのか…苦悩の1年目から飛躍の転機

日本代表の町野修斗【写真:徳原隆元】
日本代表の町野修斗【写真:徳原隆元】

町野修斗はボリビア戦でゴールをマーク

 ストライカーという言葉に強い矜持を宿している。日本代表が臨んだキリンチャレンジカップ2025ボリビア戦でFW町野修斗がその思いをゴールという形で主張をした。1-0で迎えた後半22分、町野は上田綺世、中村敬斗とともにピッチに投入されると、1トップの上田の後方の2シャドーの一角に据えられた。(取材・文=安藤隆人)

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「シャドーだからといってアシストに回るというか、サポートに回るのではなく、積極的にゴールを狙っていく姿勢は大事にしています」

 その言葉通り、シャドーとして相手CBへのプレスやセカンドボール回収などの役割はきちんとこなしながらも、スペースがあれば裏抜けを狙ったり、ゴール前でボールを呼び込んだりと、ストライカーとしてゴールを狙い続ける姿勢を投入直後から示した。

 すると投入4分後の後半26分に中村の右からの折り返しを相手DFのタイミングをうまく外して膝で押し込んで貴重な追加点をマークした。

「僕自身はシャドーのポジションをこなすことは、よりゴールを奪いにいくための1つのオプションだと思っているので、それを数字で示すことができたと思います」

 言葉の端々にストライカーへのこだわりがにじみ出てきている。履正社高時代から彼はストライカーをこなしながらも、中盤に落ちてボールを捌いたり、1.5列目の位置でタメを作ったり、「ザ・ストライカー」というよりはなんでも器用にこなせる万能型アタッカーという印象だった。

 高校の試合の取材に行っても、サイズがありながらもスピードと技術があり、サイズを生かしたプレーよりも後者を生かすプレーを重視している選手のように映った。具体的に言うと、ポストプレーをしないといけないシーンではきっちりこなすが、最初から相手を背負うというよりは、いかにその前で前向きにボールを受けて、仕掛ける選択肢を増やせるかというプレーを見せており、1.5列目、2列目的な思考を持っている選手だと思っていた。

 裏を返せば典型的なストライカータイプではないがゆえに、プロに行ってからも「どこで起用するのが適任か」と言う問題が生じ、横浜F・マリノスでのプロ1年目は出番が来ずに苦しんだ。だが、2年目にギラヴァンツ北九州に移籍をし、最前線に固定されたことで彼の大型ストライカーとしての本能が目覚めた。

万能型から思考を変更「点を取ることが仕事」

 特に小林伸二監督(現・栃木SC監督)との出会いが大きかった。FW育成に定評のある名伯楽からストライカーに必要な技術に加え、心構えを一から叩き込まれた。

 とにかく点を取る――。

 これまで培ってきた万能型のスキルをベースにしながらも、「どんなアプローチでも点を取ることが仕事」と完全に思考を振り切ることができた。そこからのステップアップは言わずもがなだろう。湘南ベルマーレの絶対的エースストライカーとなり、カタールW杯では滑り込みでメンバーイン。当時ドイツ2部だったキールで躍動をし、ブンデス昇格を経て、今季から名門のボルシアMGへ完全移籍を果たし、日本代表にもコンスタントに選ばれるようになった。

「ボルシアMGでも、キールでもそうですけど、大きい選手と組むことが多かったので、そのバランスというのは常に意識して取り組みながらプレーしてきました」と、シャドーのポジションでこれまで培ってきた武器を活かす一方で、常に「俺はストライカーだ」という主張は欠かさなかった。

「シュートは練習から常に意識をしているので、最後のペナルティーエリアに入った時に(周りが)僕を使ってくれるような意識づけはみんなにしているつもりです。ボルシアの方ではまだまだパスが出てこないこともあるので、もうちょっと時間が必要かもしれないですけど、その姿勢は崩さないようにしています」

 帰国直後のブンデスリーガ第11節のホッフェンハイム戦、2-0で迎えた後半31分に投入されると、ボリビア戦と同じ投入4分後にワンタッチプレーから鋭く抜け出してダイレクトシュートをゴールに押し込んでドイツでもすぐに答えを出した。

 これまでの自分を大切にしながらも、強い主張はやり続ける。遠慮なんてしていたら一気に飲み込まれていく世界で、所属クラブでも日本代表でもまだ確固たる地位を築けているわけではないからこそ、より貪欲に、屈することなく己を出し続ける。世界で戦うために必要な強固なメンタリティーを携えて、町野はこれからもひたすらゴールを狙う。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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