兄に突きつけられた現実「不甲斐ないし、情けない」 Jクラブ注目の弟…追い求める“強烈な一発”

順天堂大2年MF長準喜(おさ・じゅんき)
兄と弟。同じスポーツをやっていて、年齢が近ければ近いほど、周りから比べられるし、ライバルとして意識することは多くなる。順天堂大学の2年生MF長準喜はまさに今、この意識にもがき苦しんでいる。
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10月8日に行われた関東大学サッカーリーグ2部・第15節の東京農業大との一戦、3-0のリードで迎えた後半20分に投入されると、右サイドハーフの位置からカットインとアジリティーを生かした飛び出しで攻撃にアクセントを加えた。同23分にはドリブルで1人をかわしてから強烈なシュートを放ったが、これは相手GKのファインセーブに阻まれて、結果はノーゴールで終わった。
「途中から出たからには、得点、アシストという数値化できる部分にこだわりを持ってプレーしました。でも、結果が出せなかった。何回か運び出すシーンもありましたが、もっと貪欲に仕掛けられたらと思いました」
試合後、苦悩の表情を浮かべていた。そして、「2年生になったのに、あまり試合に関われていない状況に焦りは正直あります」と口を開くと、正直な思いを吐露してくれた。
「僕は今、この状況にあるのは、相手にとって怖い選手ではないから。高校の時まで途中出場という経験があまりなくて、どちらかというと90分間のパフォーマンスの安定感を評価してもらっていたのですが、大学に入って途中出場が多くなって、短い時間の中で何を発揮できるのかという部分で、数値化できる部分が足りない。その現実を突きつけられています」
頭に浮かんでいるのは弟・璃喜(りゅうき)のプレーだった。2歳年下の弟とはずっと一緒にプレーをしてきた。FC LAVIDA、昌平高では1年と3年として同じピッチに立った。
「弟は強烈な一発を持っている。突破力、破壊力がずば抜けていて、途中出場からでも結果をしっかりと出す。僕にはそれがないんです」
インパクトに残っているのは長が高校3年生の時の選手権だった。10番で全試合スタメンフル出場だった準喜に対し、璃喜は途中出場で流れを変えるジョーカーだった。ベスト8まで勝ち進んだこの大会において、兄はノーゴールだったが、弟は1回戦から3回戦まで3試合連続途中出場でゴールを決め、圧巻の活躍を見せた。
「本当に力強くて、勝負強くて、頼もしくて。あの大会は弟に救われた。それを目の前で見ていて衝撃だったし、悔しさもありました。そこから、いざ自分が大学で当時の弟と同じ立場になった時に何も残せない、勝利を持って来ることができない。この現実が本当に不甲斐ないし、情けないんです。その姿が強烈に僕の中に残っているからこそ、弟が凄い選手なのは分かっていたけど、改めて突きつけられるんです」
追い求める「切り札になるような能力」
弟は今、昌平高3年生でJ1クラブが争奪戦を繰り広げるほどのタレントになっている。ずば抜けたドリブルセンスとシュートスキル。何より1人で局面を打開してゴールをこじ開ける力はこの世代でもトップクラスだ。
「弟の場合、決して運とかではない。本物の実力でああいう奇跡を起こしているので、本当に凄いと思う」
リスペクトの気持ちとともに、弟のように切り札になるような能力を持っておかないと、自分が上のステージに行った時に自己表現をする拠り所がなくなってしまう。この現実が準喜を苦しめていた。だが、ただ苦しんでいるわけではない。この中で準喜は打開策を見出そうとアクションを起こしている。
「シンプルにもっとうまくならないといけない。アジリティーだったり、スピードの質を上げたりすることはもちろんですが、今取り組んでいるのは逆足である左足のプレーの質の向上です。僕が順天堂大に来て一番衝撃を受けたのは、昨年の4年生のMF岩井琢朗(ジェフユナイテッド千葉)さんで、両利きだからこそプレーの引き出しも多くて、相手にとって本当に脅威になっていた。僕も左足を自在に扱えるようになったら、もっと先に行けると思ったので、今は普段の練習、自主トレでは左足を多く使うようにしています」
ただ左足のキックだけではなく、トラップ、ボールタッチ、ターンの軸足など細部にわたって意識を持って取り組むようになった。シュート、ドリブル、切り返しから初速を乗せる踏み込みやセカンドステップに至るまで、自分の身体に染み込ませるようにひたすら感覚と技術を積み重ねている。
まだそれが結果には繋がってはいないが、コツコツと積み重ねて行くことで、必ず自分を支える血肉となることを信じている。
「左右できて、トップ下でもどこでも広いプレーエリアと多くの選択肢を持てる選手になる。そのために繰り返して行くしかないと思っています」
苦しさはあるが、こうした創意工夫こそが人を大きく成長させる。それは何より突きつけられた現実に目を背けなかった強さでもある。
「同期の刺激もありますけど、やっぱり弟の存在は強烈ですね。でも、こうして自分に足りないものを気づかせてくれる大事な存在でもあります」
この姿勢がある限り、必ずこの先ブレイクスルーの時を迎えるだろう。自分と真摯に向き合った上での日々の努力は、決して自分を裏切らないのだから。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















