トップ昇格断り大学進学「一番の近道」 “三笘ルート”歩む逸材…監督が明かす共通点「似ているなと」

追加招集をされた筑波大1年生ボランチ・矢田龍之介
9月3日に開幕するU-23アジア杯予選(ミャンマー)に挑むU-22日本代表に、筑波大の1年生ボランチ・矢田龍之介が追加招集をされた。
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筑波大は9月3日に開幕する第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントを控えており、矢田も大学最初の全国大会に向けて調整をしていたが、MF嶋本悠大がコンディション不良のために不参加。矢田に急遽白羽の矢が立った。
もちろん、筑波大にとっては大きな痛手となるが、小井土正亮監督は快く矢田を送り出した。
「追加招集があったことを告げた時は本人も驚いていましたね。チームのことも気にかけてくれましたが、(ブレンビーに加入をした)内野航太郎もU-22日本代表にアジア大会で追加招集されてから、韓国戦でゴールを決めるなど貢献をして、代表定着を掴んで行った。日の丸をつけられるのは光栄なことですし、『遅れてきたヒーロー』じゃないけど、頑張ってきて欲しいと伝えました」
矢田にとって筑波大学はまだ半年だが、『大切な場所』になっている。清水エスパルスユース時代、トップ昇格を打診されるも、彼は筑波大でさらに成長をしてプロの世界を狙っていく道を自ら選んだ。
「この選択が遠回りのようで、一番の近道のような気がしたので、この決断をしました」
清水ユースでは年代別日本代表の常連で、2023年のU-17W杯にも出場をしており、その年には高校2年生でルヴァンカップにも出場。トップデビューを果たしている。
的確な状況判断能力と広い視野を駆使して、状況に応じて複数の選択肢を持って、その瞬間に最適解をプレーで表現していく。個人戦術をしっかりと持ち、チーム戦術のアジャストも早く、年代別代表に選ばれ続ける理由がよく分かる選手だった。
トップチームのキャンプに参加し進路を熟考
昨年のトップチームのキャンプに参加をした際、矢田のなかで考え方に変化が起きたという。
「元々は早めにプロに進みたいと思って行ったのですが、キャンプに参加をして、今後をいろいろ考えるようになった時に『高卒プロか大学経由か』で悩み始めました。どちらも成長は間違い無くできると思うのですが、大学は4年間という猶予が与えられた中で自分の成長にフォーカスをしっかりと当てられるのが魅力だった。その中でも筑波大は勉強面でも様々な角度で身体のことや影響のことなど、サッカーを見たり、学んだりすることができて、1週間のコンディションづくりや課題の強化、人間性の部分でも磨かれるのではないかと思うようになったんです」
キャンプ後の春に昇格を伝えてもらった。当然大きな喜びを抱いたが、答えはなかなか出せなかった。葛藤を抱えた状態で6月に筑波大に訪れた。負傷中だったため、練習には参加できなかったが、そこで小井土監督と面談し、思いをぶつけた。その当時のことを小井土監督はこう回顧する。
「どんなキャリアを歩みたいかをしっかりと考えている選手だなと思ったのが最初の印象でした。なんとなくとか抽象的な部分がないですし、自分の考えをきちんと話せる選手。彼ならどの環境に行っても成功できる選手だと思いましたし、その中でウチを希望する強い意志を感じたので、もし入学することになったら、しっかりと彼が思い描いている以上の成長曲線を描かせてあげたいなと思いました」
トップも筑波大も両方見た上で、彼はさらに悩んだ。清水の強化部も「最後は龍之介が決めて欲しい」と尊重をしてくれた。周囲に感謝をしながら、何度も本気で自分と向き合った結果、夏に彼は決断を下した。
「最終的には大学で試合経験を重ねながら、いろんなチャレンジをして、技術、フィジカル、人間性をきちんと身につけてから、プロにチャレンジをしようと思いました。筑波大学でしか身につけられないものがあると思いました」
トップ昇格を断って筑波大にやってきたのは、川崎フロンターレU-18からやってきた三笘薫が代表格として挙げられる。面談の際に矢田も三笘の名前を挙げていたというように、筑波大から日本代表の主軸となり、プレミアリーグで躍動をする彼が1つのロールモデルになっていた。
三笘薫との共通点とは
そして今年、矢田は開幕から出番をつかみ、ボランチとしてチームに欠かせない存在となっている。
フィジカルは増し、ボールを奪う力、そして奪ったボールをドリブルで運んで前に付けていく力強いプレーを見せるようになった。天皇杯では大宮アルディージャ、V・ファーレン長崎を相手にボランチコンビを組むMF徳永涼と共に、積極的にボールを受けて周りに展開し、ビルドアップの要衝となった。
自ら下した決断に対して、大学に入ってからもきちんと目標とプランを自分で建てて、妥協せずに取り組んできたからこそ、7月にはU-22日本代表としてウズベキスタン遠征に参加。U-23アジア杯予選予選の最終メンバーからは漏れたが、前述した通り追加招集という形でチャンスが巡ってきた。
「これまで修羅場をくぐってきているし、なんとなく評価を得てきてきた選手じゃない。日本のトップレベルで評価されている選手だし、持っている度胸は凄い。三笘とはプレースタイルや目指している選手像は違うけど、似ているなと思うのは、人の話はきちんと聞くけど、自分をしっかりと持っているから、良い感じで聞き流すこともできること。一方的に受け入れるのでは無く、きちんと自分と照らし合わせて、取捨選択をできるのは彼ら2人の武器でもあると思います」(小井土監督)
日本のトップレベルにおける自分の現在地を知り、新たなチャレンジをするためのチャンスであり、自己実現するための引き出しを増やす絶好の機会。彼はブレない信念を持って、遅れてきたヒーローとしてミャンマーの地に乗り込む。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。



















