伊1部を撃破の大学生「優先順位変わった」 浦和内定の21歳が受けた衝撃「意味がない」

筑波大学の佐藤瑠星【写真:安藤隆人】
筑波大学の佐藤瑠星【写真:安藤隆人】

浦和内定の筑波大学4年生GK佐藤瑠星に脚光

 9月3日から大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントが開幕する。

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 昨年度の大会では準決勝で新潟医療福祉大学の前に0-0からのPK戦で敗れた筑波大学は、今季の関東大学サッカーリーグ1部で2位の好位置につけている。過去3回の優勝を誇る大学サッカーの名門が挑む夏への決意を、プロ注目選手の6人に話を聞いた。

 第6回は浦和レッズに内定している190cmの大学ナンバーワンGK佐藤瑠星について。筑波大の守護神もいよいよ大学最後の夏を迎える。先の全日本大学選抜イタリア遠征でトップチームのベストメンバーで挑んできたフィオレンティーナ撃破の立役者となった佐藤は、イタリアで学んだことをこの大会で生かそうとしている。

「大臣杯の前にイタリア遠征を経験できたことは本当に大きなことでした。イタリアで自分の中の考えの優先順位が少し変わりました」

 8月5日から8月14日まで行われたイタリア遠征。全日本大学選抜はジェノア、ヴェローナ、フィオレンティーナ(セリエA)、チェゼーナ(セリエB)のトップチーム、ACミランのU-23チームと対戦した。成績は2勝1敗2分、佐藤はジェノア戦で30分出場し、チェゼーナとフィオレンティーナ戦はスタメンフル出場を果たした。

 中でもこの遠征の存在を日本中に知らしめたのが、フィオレンティーナとの一戦だった。GKダビド・デヘア(元スペイン代表)、MFロビン・ゴセンス(ドイツ代表)、マンチェスター・シティ、ASローマ、インテル・ミラノなどでプレーした偉大なるストライカーのFWエディン・ジェコ、ユベントス、パリ・サンジェルマンなどでプレーした25歳のFWモイーズ・キーンなど、レギュラーメンバーを揃えた本気のヴィオラを前に、佐藤が大きく立ちはだかった。

課題を見つめ直すきっかけに

 1失点こそ喫したが、相手の4度の決定機をスーパーセーブで阻止すると、それ以外でも安定したゴールキーピングを見せて、最小失点に封じ込んで見せた。

「シーズン開幕直前で、どのチームもかなり仕上がってきていましたし、何よりモチベーションが高い状態で臨んできてくれたので本当に嬉しかった。個人的にはセービングやクロス処理などの部分はやれたと思っていて、そこは自信になりましたが、ビルドアップや足元の面で大きな課題というか、ずっと感じていたことの重要性を知ることができました」

 彼の言う『ずっと感じていたこと』というのは、GKとしてのビルドアップの関わり方やその上で大事なことだった。

「痛烈に感じたのは、『試合の流れを読む力』の重要性です。相手の状況を見てプレーするのは当たり前ですが、チームが今どういう状況で、どうしないといけないか。ここは細かく繋ぐべきなのか、大きく蹴った方がいいのか。その逆も然りで、その判断を間違えると、自分ではなく、味方の選手の体力を奪ってしまうんです。その重要性は薄々感じていたのですが、自分の優先順位において、GKとしてのゴールを守る能力ばかりが高くて、試合を読む力は下の方にありました。でも、フィオレンティーナは90分間を通して物凄くプレス強度が高くて、僕が無闇に蹴ってしまったら前向きに拾われて2次、3次攻撃を浴びる。逆に無闇にリスタートをしたり、繋ごうとしたりしてしまったら、相手のプレスにハマってたちまちピンチになる。いずれも味方が疲弊してしまう。その現実を目の当たりにして、考え方が変わりました」

 フィオレンティーナのプレスは想像以上に強烈だった。何より日本では前からのプレスを仕掛けるが、ボールをハントするというより、寄せていって、ボールが動いたら陣形を整える分、プレスが緩くなる。だが、彼らは完全にボールを奪いに来ていた。

「自分のところまで2度追い、3度追いをしてきて、本気で取りに来る圧が凄まじかった。最初は交わせていたのですが、だんだんその圧を受けてしまうようになってしまって、体力がどんどん削がれていく感覚でした。相手は試合終盤になってもその強度、圧は変わらないし、こっちは体力を奪われて足が止まっていく中で、一気に飲み込まれてしまう。2-1で勝利をすることができましたが、いつやられてもおかしくなかった。だからこそ、あそこで僕がゲームを読む力を発揮して、味方の体力をなるべく削らせないように、圧を交わす、リズムを変えるプレーができていたら、もっといい展開に持ち込めたし、体力を維持した状態で戦えたと思うんです」

重要性が増しているプラス1の存在

 強烈なインパクトを体験し、自分の考えが一気に整理された。近代サッカーにおいてGKは『守備の人』ではなく、攻守両面で数的優位や起点を作り出す重要な『プラス1』になる。

 試合展開がキツくなったり、フィールドプレーヤーの体力や思考力が奪われて行ったりする中で、心肺機能的に負担が少なく、比較的プレーの余裕があるGK、プラス1の存在の重要性はどんどん増していく。

 だからこそ、そのプラス1の戦術理解度、状況判断力、試合全体の流れを読む力が高ければ高いほど、チームにとって大きな力を生み出す。

「やはりビルドアップの部分はもっと突き詰めてやらないといけないと思っています。ビルドアップが出来ても、試合の流れを読めなければ意味がない。逆にいくら試合の流れを読めたとしても、キックの精度やトラップの精度などが低かったら意味がない。この両輪を共に優先順位を高くして磨いていきたいと思っています」

 総理大臣杯は9月で東北開催と言えど、キックオフ時間が11時、14時であることを考えると強烈な残暑が残る可能性は高いし、3回戦までは中1日の連戦で、準々決勝以降は中2日の連戦。

 しかも、全て一発勝負で、90分マッチプラス延長戦(20分)もあることを考えると、フィジカル的な負担は勝ち上がれば勝ち上がるほど大きくなる。それゆえにプラス1の価値がより重要となる大会であることを、佐藤は深く理解している。

「もう自分のプレーだけではなく、チームに対して自分が与える影響を考えながらプレーするフェーズに入っています。その1つが試合の流れを読む力なので、総理大臣杯では味方の消耗を少しでも抑えて、流れを壊さずに、逆により良い流れを生み出せるように、いい判断、いいキックをしっかりと出せるようにしたいと思っています」

 研ぎ澄まされていくGKとしての感覚と広がっていくプレーの幅。大学ナンバーワンGKはさらに進化した姿を東北の地で見せつける。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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