「遺体から靭帯移植」手術も…まさかの“やり直し” なでしこ逆輸入候補の逆転人生

米大学リーグで評価を高める井戸ケイト、紆余曲折のキャリア
米大学リーグで評価を高め、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)への逆輸入選出を目指す逸材がいる。昨季米大学リーグNAIAでMVPに輝き、NCAA・南フロリダ大学(USF)にステップアップする元U-16日本代表FW井戸ケイトだ。期待の点取り屋はキャリアを脅かした大怪我と手術からの逆転人生について語った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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「8月からUSFに転校するんですよ。これまでのNAIAよりリーグのレベルも高いですし、お金ももらえます。スタジアムも格段に大きくなりますし、観衆も増える。本当に新天地を楽しみにしています」
東京・亀戸のトレーニングジム「COREトレSTUDIO」で自主トレに励んだ井戸は新たな挑戦に燃えていた。
浦和レッズレディースの下部組織から米・テネシーサザン大学に入学した井戸。同大ではリーグ優勝に導き、最優秀新人賞、得点王、MVPなどタイトルを総なめにした。参加250校のNAIAリーグよりも1100校加盟を誇るNCAA(全米体育協会)の1部リーグに所属するフロリダ州タンパの強豪に奨学金付きでステップアップすることを明かした。
浦和レディースの下部組織出身の井戸はユース時代にトップチーム登録された経験を持ち、高校2年からトップチームの練習に参加するなど実力も評価されていた。そんな逸材は、なぜ米国留学を選んだのか。
「チームに怪我人が多くて、練習参加した時にいろいろと感じることがあった。このチームで活躍するのもいいなと思った一方で、小学校でワールドカップを見て、強いアメリカに行きたいという気持ちもあった。進学について家族と相談した時に難しい道を選んでもいいんじゃないと言われて。代表からは遠回りするかもしれないけれど、アメリカで学びながらサッカーをする道を選びました」
左サイドのアタッカーとしての才能をメキメキ伸ばした井戸だが、2022年8月にキャリアの危機を迎えた。内側側副靱帯に怪我を抱えながら参加したサマーリーグという大学合同練習の練習中に左膝の前十字靭帯を損傷。ここから苦難の日々が始まる。
「アメリカで手術を受けたんですが、医療面の知識が全くありませんでした。ほかの方のご遺体から靭帯を抜いて、手術で私の膝に移植すると言われたのですが、細かく理解できていなかった。できるなら早く手術してほしいと伝えたんですが、実際私の身体には合っていませんでした」
日本では普及していない手術方法で前十字靭帯を移植する手術で復帰を目指したが、思うような回復は果たさなかったという。
「全くプラン通りに回復しませんでした。アメリカのリハビリのトレーナーからは結構順調と言われていたんですが、手術2か月後にジョギングできるはずが、まだ松葉杖生活でした」

復活後に足首骨折…「固定していたはずが、ギプスがガバガバ」
そうした状況のなか井戸の母親が、日本代表FW久保建英らを指導するプロトレーナーの木場克己氏に初めて連絡。「4か月後に走れるようにしてください」と依頼した。神奈川県内の病院のドクターとも連携を取り、膝の状態をチェックしたあとには衝撃の現実を突きつけられたという。
「手術をやり直したほうがいいと言われました。アメリカの手術で入れた靭帯は抜かなければいけないということになりました」
2023年1月、遺体から移植した靭帯が適合せず、再び抜く手術を受けることになった井戸。前十字靭帯は自身の太ももの裏の腱を取り、再建する方針だった。しかし、「手術から4か月間、アメリカでほとんどリハビリが進まなかったので、太ももが細くなっていたんです。腱が細いので、このまま手術しても上手くいかないと」と、井戸は当時を振り返る。
太ももの腱を膝に移植できる強度まで戻すため、靱帯摘出手術から3か月間リハビリと筋トレに励んだ。そして、再手術にようやく成功したという。その後、1年5か月のリハビリの末に井戸はようやく復活。2024シーズンは米大学のリーグMVPとベストイレブンに選出された。
順調な活躍を見せていたが、2024年11月のリーグ戦最終盤の一戦で、相手のクロスをブロックした際に足首を骨折。ここでも思わぬ事態に直面したという。
「ギプスで固定していたはずが、ギプスがガバガバでした。X線検査でもあまり変わっていないし、骨がくっ付いている感じもないけれど、アメリカのドクターは良くなっていると説明する。そこで日本でドクターに見てもらうことにしました。セカンドオピニオンは大事だとつくづく思いました」
2024年12月に一時帰国し、再び神奈川県内の病院で検査を受けた際に手術を勧められた。翌日に手術し、再びリハビリ生活に突入。木場氏の直接指導を受けながら渡米前に体幹を鍛え上げた井戸は、「日本では手術とリハビリしかしていませんね」と苦笑交じりに話す一方、キャリアを左右する苦境も進化の糧としている。
「今は本当に怪我をして良かったと思っています。怪我のおかげで木場さんと出会えた。怪我する前と現在では姿勢が違うと言われます。体幹を鍛えたことでドリブルの時も腰が立って、上体が上がった。周りが見えるようになって、周囲を使うプレーが増えたと評価されます。木場さんのトレーニングの成果だなと感じています。このまま活躍して、アメリカの大学からなでしこジャパンへの逆輸入を目指したいです」
地獄の日々を乗り越えた井戸は目を輝かせていた。
(FOOTBALL ZONE編集部)




















