出場なしでも絶大な“カズ効果”「少しでも入ってくれれば」 異例の記念試合…J3ライセンス申請へ

ベンチ入りも出番がなかった三浦知良【写真:産経新聞社】
ベンチ入りも出番がなかった三浦知良【写真:産経新聞社】

カズは2戦連続出場はならなかった

 JFLアトレチコ鈴鹿は6月22日、ヴェルスパ大分とホームのAGF鈴鹿陸上競技場で対戦し、0-0で引き分けた。FWカズ(三浦知良、58)はベンチ入りしたものの、前節15日のY.S.C.C.横浜戦に続く出場はなし。試合後には「出られなかったのは残念」と言いながらも「しっかりやるべきことをやって、いい準備をしたい」と前向きに話した。

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 前半、チームはJFL得点ランク2位の元日本代表FW金崎夢生率いる大分の攻めに苦しんだ。耐えて迎えた後半31分、相手DFの退場で数的有利に立ち、終盤猛攻をしかけたがゴールはならず。山本富士雄監督は「勝ち切りたかった」と3連勝を逃して話した。

 メインのホームである三交鈴鹿が使えず、鈴鹿陸上競技場での試合は3か月ぶり。荒れた芝でボールは不規則に弾み、ロングパスの蹴り合いになった。「ピッチコンディションがよくなくて、選手にとってはやりにくい試合だった」とベンチでチームを鼓舞し続けたカズは勝ち点3を奪えなかった選手たちを気遣った。

 キックオフの午後1時で気温30度の暑さも選手たちの体力を奪った。JリーグではJ3でもこの時期は半数以上がナイター。しかし、資金的な問題もあってJFLでは昼間の試合ばかりだ。「激しい運動は禁止」となるようなコンディションに、カズも「普通はスポーツなんかやらない暑さなんで」と酷暑マッチを嘆いた。

 変則日程だった5月は2連敗で計9失点とボロボロだったチームが、カズがベンチ入りした6月は4試合で2勝2分け。「なかなかゴールがとれない」と山本監督は話したが、失点は4試合で1だけと守備は安定してきた。「ベンチから選手目線でチームメートにかけてくれる言葉が大きい」と同監督も「カズ効果」を絶賛している。

 試合だけではない。「カズ効果」はクラブ目標のJ3昇格に向けても欠かせない。この日、斉藤浩史オーナーは6月中に三交鈴鹿(三重交通Gスポーツの杜鈴鹿サッカー・ラグビー場)をホームスタジアムとしてJリーグにJ3ライセンスを申請することを明かした。

 鈴鹿ポイントゲッターズ時代には市内に新しいスタジアムを作る計画もあったが、クラブ運営の問題などで白紙撤回。三交鈴鹿は照明やアクセスなどに課題もあるが、J基準を満たすように改善策を示しているという。行政との関係が最大の問題とされていたが「三重県とも鈴鹿市ともいい関係を築けている」と斉藤オーナー。ここでも、表敬訪問などに同席したカズの力は大きい。

試合後、サインの求めに応じる鈴鹿FWカズ【写真:荻島弘一】
試合後、サインの求めに応じる鈴鹿FWカズ【写真:荻島弘一】

異例となる「キングカズ、プロ40周年記念試合」

 7月6日のヴィアティン三重との「三重ダービー」を「キングカズ、プロ40周年記念試合」としたのも、Jリーグ入りへの機運醸成を考えてのもの。リーグの公式戦をスポンサーの冠をつけて開催することは珍しくないが、個人の選手名をつけるのは異例のことだ。

 斉藤オーナーは「もともとプロ40周年に、クラブで何かできないかと思っていた。ただ、試合はあくまで公式戦なので、出場するかどうかは別」と説明。リーグ前半折り返しと区切りのいいホーム戦での実施は、カズがベンチに戻る前から決まっていたという。

 カズ自身も「40周年を祝ってくれるのはありがたいけれど、エキシビションではないので」と厳しい表情。周囲の騒ぎを落ち着かせるように「お祭りじゃない。普通のリーグ戦なので、いつも通りいい状態で迎えられるように準備するだけ」と淡々と話した。

 J3ライセンス申請の可否が出るのは9月のJリーグ理事会。スタジアムやクラブの財務状況などが認められてライセンスが交付されれば、あとは成績と観客動員数が昇格への条件となる。2位以内(1位は自動昇格、2位は入れ替え戦)で、平均2000人以上。どちらも、クラブにとって高いハードルだ。

 前節まで6位の鈴鹿は、3位の大分に勝ち切れずに上位浮上のチャンスを逃したが、まだシーズンは前半戦。山本監督は「苦しい時期もあったが、チーム状態は良くなってきている。まだまだこれからなので、1つ1つ勝っていきたい」と2位以内目指して話した。

 観客数増にはカズへの期待も大きい。「選手の立場としてはできることは限られている」と話すカズだが、自身の「40周年記念試合」に関しては「クラブが地域を盛り上げ、少しでもお客さんが入ってくれれば」と多くのファンに来場を呼び掛けた。

 試合出場こそ1試合だけだが、試合に出るための準備を徹底して4試合連続でベンチに入ったカズ。鈴鹿が「Jクラブ空白」の三重県から初のJリーグ入りを目指して、カズとともに動き出す。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)

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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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