Jリーグの未来を握る「対サウジ」 欧州ビッグクラブとの“決定的格差”を埋める方法

Jリーグと欧州5大リーグとの差を埋めるにはどうしたらいいのか
Jリーグと欧州5大リーグとの差は資金力だ。
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技術、戦術の差はそれほど大きな差ではないと思う。2年前の2023年夏にマンチェスター・シティが来日して横浜F・マリノスと国立競技場でフレンドリーマッチを行った。同じシティ・グループで戦術的にもよく似ている同士。プレシーズンでチームが始動したばかりだったシティは当然コンディションが十分ではなく、横浜FMは前半、互角以上のプレーをしていた。しかし、後半からシティがメンバーを一新すると、シティが圧倒的に優位になった。
最も大きな差はフィジカル能力だということがよく分かる例だった。シティにそれが欠けていた前半は五分だったが、メンバーを入れ替えてフレッシュな選手を投入すると流れは一変。横浜FMは後半も前半と同じ選手でスタートしていて、その時点でコンディションの優位がなくなっていたので、たちまち劣勢に追い込まれた。
では、その差を埋めるにはどうしたらいいのか。すでに完成されているプロ選手の体力を向上させるのは簡単ではない。もともと体力のある選手を揃えるしかなく、それには補強資金が必要になるが、そこに欧州と日本に大きな差があるので現状ではどうにもならない。課題は分かっていても手の打ちようがないわけだ。
Jリーグがシーズン移行を決めた理由の1つがAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)重視である。FIFAクラブ・ワールドカップ(クラブW杯)にJクラブを参戦させることが、資金面の差を埋めることにつながるからだ。
今年からレギュレーションが大幅に変更されたクラブW杯は32クラブが約1か月間でクラブ世界一を争う。賞金総額10億ドル(約1450億円)。今回参戦している浦和レッズは参加賞金として955万ドル(約13.8億円)を得ている。グループステージで1勝すれば200万ドル(約2.9億円)がプラスされ、引き分けでも100万ドル(約1.5億円)が加算されていく仕組み。ベスト16、準々決勝、準決勝、決勝と勝ち進むごとに賞金は上乗せされていく。優勝賞金は4000万ドル(約58億円)だ。
クラブW杯にJクラブを参加させることが財政の底上げに直結
クラブW杯は今後4年ごとに開催予定。出場クラブの選定は少々複雑なのだが、AFCからは4チームが出場する。今回は浦和が2022年ACL王者として出場していて、2021年のアル・ヒラル(サウジアラビア)、23-24シーズン優勝のアル・アイン(UAE)のほかにクラブランキング2位の蔚山(韓国)が出ている。
クラブW杯にJクラブを参加させることが財政の底上げに直結し、欧州ビッグクラブとの戦力格差を埋めるためには決め手になる大会と言える。クラブW杯で勝ち上がるのはもちろん容易ではないが、出場するだけでも大きな収入になるし、逆に出場できなければ欧州どころかアジアの中でもステータスを落とすことになる。
少なくとも4年に1回はACLE優勝チームを輩出し、クラブランキングのポイントも稼がなければならない。そこで壁になるのがサウジアラビア勢である。
2024-25シーズンから新方式になったACLEでは川崎フロンターレが準優勝したが、ベスト4の川崎以外の3チームはすべてサウジアラビアのクラブだった。準々決勝からのノックアウトステージは集中開催、サウジアラビアで行われた。次回もサウジアラビア開催が決まっている。
つまり、Jクラブの当面の目標はサウジアラビア勢に勝つことなのだ。サウジアラビア有利の大会運営も含め、逆境を跳ねのけて、アジアの覇権を握るというタフな戦いになる。Jリーグの命運を握るのは対サウジアラビアという、非常に分かりやすい目標設定になる。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。