帝京10番の重圧…同僚から苦言「打つな」 プロ入り先輩の助言「最後は自分の感覚を掴め」

帝京の久保恵音「10番と言えば、僕が1年のときの3年生だった横山夢樹選手」
カナリア軍団・帝京が2年連続35回目のインターハイ出場を手にした。思い起こせば3年前の徳島インターハイが1つの転機だった。
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その前年に11年ぶりの全国大会となるインターハイ出場を決めると、この年は2年連続で出場し、決勝進出を果たした。決勝の前橋育英に勝利をすれば、実に20年ぶりの全国制覇となったが、後半アディショナルタイムの失点で0-1の敗戦。胸に刻まれた9つの星を、10冠を表す大きな1つ星にはできなかったが、ここからまた新たな歴史が動き出した。
昨年度は15年ぶりの選手権出場も果たし、ベスト16に進出。そして今年も全国の切符を手にした。
「入るまではそこまで伝統などよく理解していないというか、このサッカーがしたいと入りましたが、選手権を経験して帝京の歴史、伝統の重さ、周りからの期待を強く感じた」とエースFW宮本周征を始め、多くの選手が口にしていた。
今年、10番を託されたFW久保恵音もその重みを感じた1人だった。
「僕にとって帝京の10番と言えば、僕が1年のときの3年生だった横山夢樹(FC今治)選手なんです。横山選手はドリブルでチャンスが作り出せるし、決めきる力が凄まじい。入学してからずっと僕の目標であり、憧れの先輩なんです」
横山は高卒で当時J3だった今治に入ると、1年目で6ゴールをマークしてJ2昇格に貢献。今年はすでに4ゴールをマークして躍動を見せている。圧倒的な存在感を放つ横山に対し、久保は1年生ながら積極的にコミュニケーションを取り、何度もアドバイスを求めたという。
「横山選手から学びたかったので、練習中にもいろんな話をしてもらいました。印象に残っているのは『最後は自分の感覚を掴め』という言葉。僕はドリブルで縦に仕掛けるのが得意なので、そこからチャンスメークやフィニッシュの感覚を自分なりに磨いています」
昨年まではなかなか出番を掴めず、選手権もメンバー外。しかし、横山の言葉を胸に刻んで黙々と武器を磨いた結果、3年生になると憧れの10番を託された。横山に報告をすると、「頑張れよ」とエールをもらった。この瞬間、彼にとってカナリアの10番にふさわしい選手にならないといけないという責任感が生まれた。
勝てば全国出場が決まるインターハイ東京都予選準決勝・早稲田実業戦。固さの残る立ち上がりの空気を一変させたのが久保だった。
前半10分、DFラインのパス回しからレフティーCB高橋遼にボールが渡った瞬間、最前線に張っていた宮本が縦パスを引き出そうと落ちる動きをしたことで、DFラインの背後にスペースが空いたことを確認すると、一気にそのスペースへ加速をした。
この一連の動きを見逃さなかった高橋の左足からスペースへ浮き球のフィードが届く。慌てて戻ろうとするDF、前に出てくるGKの間に身体を入れ込むようにジャンプをして胸でボールをコントロールし、そのままGKを交わしに行くと、GKの手がかかって倒れた。PKを告げるホイッスルが鳴ると、久保は迷うことなくボールを手にしてPKスポットに置いた。
「プリンスリーグ関東1部の開幕戦以降、公式戦でゴールが決められていなかったので、どうしても点が欲しかった」と、自ら得たPKをGKのタイミングを外して中央に決めると、後半9分には左サイドでパスを受けてからカットインを仕掛けて右足一閃。強烈な一撃はゴール右に突き刺さった。
「ずっとゴールに飢えていたし、チャンスはたくさんあったのに決められなかった。特に予選前のプリンス関東1部(第5節)の横浜F・マリノスユース戦ではシュートを6本くらい打って決められずに2-2のドローに終わった。(宮本)周征にもめちゃくちゃ怒られたり、チームメイトから『打つな』とも言われたりしましたが、それで萎縮せずにゴールを貪欲に狙う気持ちは絶対に持ち続けようと思っていました。それがこの2ゴールにつながった。正直ホッとしたのも本音です(笑)」
吹っ切れた10番の2発でチームも4-0の快勝。勢いに乗ったチームは決勝も快勝し、優勝を手にした。
「結果が出ないときも落ち込まずにやり続けることが結果につながる。いろいろ感じることができた試合でした」
次の目標はプレミアリーグ昇格のためにリーグで2ゴール目以降を奪うことと、インターハイ、選手権で優勝をして、20年間更新されていない自分の背番号と同じ10個目の星を掴み取ること。横山のアドバイスはこれからも積極的に仰ぐというカナリア軍団の10番は、さらなる進化を誓う。
(FOOTBALL ZONE編集部)