「周りから見たらステップダウン」でも…欧州で成長する選手の共通点 ドイツ1部日本人が目撃した成功例【インタビュー】

独3部経験もオランダの強豪へステップアップを果たしたヤコヴ・メディッチ【写真:Getty Images】
独3部経験もオランダの強豪へステップアップを果たしたヤコヴ・メディッチ【写真:Getty Images】

ザンクトパウリで働く神原健太氏が指摘…「試合に出てプレーを継続的に見せる」重要性

 ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロ(用具係)として働く日本人スタッフの神原健太氏は、これまで複数のドイツクラブでステップアップを遂げる選手たちを目の当たりにしてきた。成長する選手の共通点とは何なのか――。神原氏はカテゴリーを下げてでも、「コンスタントに試合に出て、自分のプレーを継続的に見せる」ことの重要性を説いている。(取材・文=中野吉之伴/全4回の3回目)

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 ヨーロッパのサッカーにはいつでもステップアップのチャンスがあると言われている。先日引退を表明した3部ビーレフェルトのドイツ人FWファビアン・クロスは7部リーグ所属の小さなクラブからヴォルフスブルクセカンドチーム、ビーレフェルトへと移籍し、クラブとともに1部昇格まで経験した。現在ヴォルフスブルクでプレーする元ドイツ代表FWケビン・ベーレンスは4部リーグで長く苦闘し、2部ザンドハウゼンを経てウニオンへ。そこでの活躍が認められ一度はドイツ代表にも選ばれている。

 チャンスがあるということは、それを掴む者と掴めない者がいるということでもある。さまざまな要因があることは当然だが、そのなかで確かなステップアップを積んでいく選手には似たような特徴があると神原健太は語る。

 神原は昨季ドイツ1部へ昇格したザンクトパウリでホペイロ(用具係)を務める。間近でさまざまな選手の紆余曲折を見てきているだけに、その言葉には耳を傾けたくなるものがある。

「当たり前かもしれませんが、コンスタントに試合に出て、自分のプレーを継続的に見せないと厳しいです。ポテンシャル採用で取ってくれるのって20代前半まで。だから例えば2部クラブでスタメンかスタメンじゃないかの微妙な立ち位置の選手がいるんだったら、思い切って2部から3部へ行くのも効果的。毎週ちゃんと出て、目に見える結果を出したほうが、上に行くためには良いかなと思います」

 神原はある選手の話をしてくれた。クロアチア人センターバックのヤコヴ・メディッチ。2部ニュルンベルクに所属していたがトップチームでは出れずに、当時3部だったビースバーデンへの移籍を決意。そこで主力として活躍しチームとともに2部へ昇格。その後ザンクトパウリへ移籍を果たしている。

「ちょうどうちの選手の1人が3部リーグクラブへ移籍することになったんですね。その選手はポジションがFWで、あまり試合に出てない。3部に移籍することをどちらかというとネガティブに捉えているから、表情もなんか暗い。スタッフと選手何人かと話している時にメディッチがこんなふうに話してくれたんです。

『僕が3部のビースバーデンに行った時、周りから見たらそれはステップダウンなのかもしれない。けど、個人的な感覚からしたらむしろ逆だった。その間ずっと試合に出れたし、自分としてはすごい成長できたんだ。お前にとってもこれはもうビッグチャンスだから、ポジティブに捉えて頑張れよ』

 ほんといいこと言うやんと思いながら聞いてましたね。3部でも試合に出て好パフォーマンスを継続的に出し続けたら、すぐに2部クラブから目つけられますから」

ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロとして働く日本人スタッフの神原健太氏(左)【写真:本人提供】
ドイツ1部ザンクトパウリでホペイロとして働く日本人スタッフの神原健太氏(左)【写真:本人提供】

3部→1部で活躍の選手も「目立った活躍していた選手は引き抜かれていますから」

 コンスタントにプレーできる場所、自分のパフォーマンスを発揮できる環境を探すというのは簡単なことではない。だからこそ、そこで勇気を持って足を踏み出せるかどうか、移籍先でしっかりと自分の成長と向き合えるかどうかはその後のキャリアにおいて大事なポイントになるのだろう。自棄になったり、誰かのせいにしていたら、どれだけ資質があっても最後のところで成長し切れないというのは世界中で共通の話だ。

「ドレスデン時代も2部から3部へ降格しましたけど、目立った活躍していた選手は、ハンブルガーSVに行ったりとか、他クラブから引き抜かれていますから。それこそイエーナ(3部)で一緒だったフィリップ・ティーツという選手は今、1部アウクスブルクでレギュラーFWになってます。彼も特別何か居残り練習してるとかはなかったけど、FWとしてやるべきことに本当に集中して取り組んでいた。

 自分が置かれた環境でしっかり試合に出て自身のプレーを出せる選手が上がっていくんだなっていうのは見ててすごく感じますね。この間まで一緒にやっていた選手がどんどん上のクラブに行っているのを見ると、すごい刺激になる。『そのうち呼んでよ』みたいな感じで軽口が言える関係を築けているのがとても嬉しい」

 メディッチはその後オランダの強豪アヤックスへと移籍を果たし、ヨーロッパリーグの舞台にも立った。道はどこまでも広がっている。そして前に進み続けることだけが近道でも、最適な道でもないのだ。(文中敬称略)

[プロフィール]
神原健太(かんばら・けんた)/筑波大学体育専門学部に入学後、関東大学サッカー連盟でリーグ運営のスタッフを経験。選手をサポートする仕事に魅力を感じ、J2のFC岐阜などでホペイロを務める。その世界で頂点を極めるため2017年にドイツへ渡り、手探りで道を切り開き、3部クラブのイエナと契約。2020年に当時2部から3部降格したドレスデンへ移り、22年には2部ザンクトパウリへと移籍。23-24シーズン、クラブとともに悲願の1部昇格を祝った。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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