森保監督が「めちゃくちゃ楽しみにして」 サウジにいる“要注意人物”…封殺のキーマンは?【コラム】
森保監督「サイドの攻防はめちゃくちゃ楽しみにしていただければ」
森保一監督の感性は鋭くなっている。
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もともと鈍かったわけではないのだろうが、あまりにも正直すぎた。そのためいろいろ憶測を生むような言葉を使ってしまうことがあった。だが、今は何が危険なのか察知する能力が研ぎ澄まされている。
10月3日に行われた、2026年の北中米共催ワールドカップ(W杯)アジア最終予選のサウジアラビア戦(10日)、オーストラリア戦(15日)に向けたメンバー発表記者会見でその感性がいかんなく発揮された。
サウジアラビアとの試合でサイドの攻防はどうなりそうかと聞かれたとき、森保監督はこう答えた。
「まずは相手のことを分析して、個々の能力、チーム戦術としてどういう戦いをしてくるかということをしっかり分析して把握した上で、我々が対策を練っていかなければいけないかなと思っていますし、対策については既に進めているところではあります。相手のことについても大切ですけど、我々が個々、そしてチームとして持てる力を最大限に発揮できるかというところは間違いなく大切になってくると思いますので、自分たちが思い切って力を発揮できるように、戦術的な準備、そして役割の準備というところをしなければいけないと思います」
「サウジアラビアのサイドアタッカーの選手のこともイメージは出てきています。ただ、サイドだけではなくて中央からも突破できますし、9月の活動においてはセットプレーで高さを生かして、そしてデザインしてゴールにねじ込んでくるというところもありますので、すべての部分で対策しなければいけないと思っています」
こう言って笑った森保監督は、たくさん言葉を並べたが、実は何も語っていない。会見終了時に立ち上がって「サイドの攻防はめちゃくちゃ楽しみにしていただければ」と笑顔で再び語り会場を去っていった。ただ、具体的なことは何も明かさなかった。
しかし、この「サイドの攻防」が何を表しているのか、そして誰のことを指しているのか、実は過去にチーム関係者が語ってきたことを集めて考えると、推し量ることができる。これまでに話題になっていた選手がいるからだ。
8月にアル・ヒラル(サウジアラビア)からローマ(イタリア)に加入したDFサウド・アブドゥルハミドのことだろう。今年のアジア杯では右のウイングバックとして出場していたが、右サイドバックでもアウトサイドでもプレーする。走り方やしなやかさは、かつて川崎フロンターレや鹿島アントラーズで活躍したジュニーニョを思い起こさせる。早いだけではなくテクニックもあり、視野も広い。アジア杯では攻撃の起点として最も輝いていた。
このアジア杯で韓国がサウジアラビアと対戦したときは、この選手のスペースを徹底的に消した。そのせいもあって韓国はなかなかチャンスが作れず、後半開始早々にはサウジアラビアに点を奪われた。韓国が追いついたのは後半アディショナルタイム9分。結局、PK戦までもつれ込んで韓国が勝利を収めている。アブドゥルハミドが活躍できなかったのはこの試合ぐらいだった。
日本代表でアブドゥルハミドと対峙するのは三笘薫になるはずだ。三笘にぶつけてくると言ったほうがいいかもしれない。そうなると、森保監督が言う「我々が個々、そしてチームとして持てる力を最大限に発揮できるか」を現実にするには、まずは三笘のコンディションがどうかという問題になってくる。また、三笘が飛び出した後方を誰がどうカバーするか、という点も重要になるだろう。
カバーのためには守備能力が高い選手を置きたいはずだ。4バックにして必ずサイドに2人いるという形も考えられる。韓国がサウジアラビア戦で見せたように、3-4-3でスタートし、途中で4-2-3-1に変えて攻撃を強化し、最後は4-4-2の2トップに変えるという変化も日本ならできる。
もっとも、9月は日本のスタートが3バックなのか4バックなのか、相手チームは迷ったはず。ただ、今回は3バックだと予想されているだろう。そして日本のストロングポイントである両サイドの人材の豊富さを考えると3バックのほうが日本の強さは発揮できるだろうし、せっかくいいイメージができたシステムから変更するのは得策でもない。
攻撃的な3バックで先に仕掛けて押し切ることもできるかもしれないが、問題はヨーロッパと約20度違う気温の中でプレーしなければいけないという環境だ。前回大会の予選は2021年10月8日の対戦で、日本は前半こそ動けていたものの、後半になると目に見えて失速してピンチが増えた。後半26分にミスになったバックパスを相手選手に奪われて決勝点を許した。
今回も当地でのトレーニングは、ほぼ2日間だけで試合に臨まなければならないことを考えると、後半はギリギリのところでの戦いが予想される。アブドゥルハミドを消耗させるために最初に攻め込むのか、あるいは動きが鈍った中で三笘を投入し、アブドゥルハミドが上がれないようにするのか。システムとともにいろいろな考えができるはずだ。
おそらく集合した後にコンディションを見ながら決めなければならない部分が大きいだろう。そのときに森保監督はどれくらい手を持っているのか。多ければ多いほどいい。そこを聞きたかったが、森保監督のアンテナが相手に知られる危険を察知して、うまくはぐらかされた印象だ。残念だが、想像する楽しみを残してくれたと考えることにしたい。
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。