欧州飛躍の28歳FWを抜擢も…手堅い陣容で連勝街道へ 長友ベンチ入り可能性、10月シリーズ考察【コラム】
大橋の初招集が大きなトピックも…出場機会は訪れるか
9月の中国・バーレーン2連戦を7-0、5-0で圧勝し、2026年北中米ワールドカップ(W杯)に向け、ロケットスタートを見せた日本代表。しかしながら、10月のサウジアラビア(現地時間10日/ジッダ)・オーストラリア(15日/埼玉)の2連戦は難易度が一気に上がる。
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サウジにはこれまで敵地ジッダで一度も勝ったことがないし、オーストラリアもギリギリの戦いを強いられ続けている。両国とも9月シリーズは足踏み状態を余儀なくされたが、日本に対しては特別な闘争心を持って挑んでくるはずだ。
「前半戦最大の山場」と位置付けられる10月シリーズに向けた日本代表メンバー27人が10月3日に発表され、前回名を連ねていた浅野拓磨(マジョルカ)、中山雄太(FC町田ゼルビア)、細谷真大(柏レイソル)の3人が外れている。新たに大橋祐紀(ブラックバーン)、瀬古歩夢(グラスホッパー)、藤田譲瑠チマ(シントト=ロイデン)の3人が抜擢された。
多くの人々の目を引いたのが、大橋の初招集だろう。
「若手であれ、ベテランであれ、明らかに結果を出している、存在感を発揮しているということであれば、誰にでもチャンスがあるということ。それを大橋通じて知ってほしい」と森保一監督は説明。28歳にして初めて日の丸を背負うことになった遅咲きの点取り屋に期待を示した。
確かに大橋のこの1年の急成長ぶりは凄まじい。2019年に湘南ベルマーレ入りしてから4シーズンはそこまで傑出した数字を残していたわけではなかったが、当時同僚だった町野修斗(ホルシュタイン・キール)が海外移籍した昨夏以降ブレイク。2023年シーズンは合計13ゴールを叩き出し、湘南のJ1残留に貢献した。
そしてサンフレッチェ広島に赴いた今季も開幕からゴールラッシュを見せ、前半戦だけで11得点をマーク。イングランド2部挑戦の道を自ら切り拓いた。新天地でもここまで4ゴールと存在感を強烈にアピールしており、指揮官のお眼鏡に叶った格好だ。
一方、瀬古と藤田は過去に招集歴のある選手。瀬古は第2次森保ジャパン初陣だった2023年3月シリーズ、藤田は22年E-1選手権以来の参戦となる。
まず瀬古について森保監督は「彼のプレーは追っていて、自チームで成長していることを確認している。グラスホッパーでやっていることを自然と発揮してもらえれば代表でも戦力になる」と発言。中山、冨安健洋(アーセナル)、伊藤洋輝(バイエルン)の3人が離脱中で手薄になっているDF陣の即戦力と考えている様子だ。
藤田の方は、ご存知の通り、パリ五輪のU-23日本代表キャプテン。本番でも異彩を放ち、日本の8強入りの原動力になった。
「五輪が終わってからもベルギーの所属チームの中で安定して先発し、チームを牽引しているのを確認して、招集しました。通常は6番のプレーをしているが、8番の攻撃的なところを代表で見てみたい」と指揮官は起用の具体的イメージも口にしていた。
とはいえ、3人とも出番を得られるかどうかというのは微妙だろう。もともと森保監督は序列を重んじるタイプで、いきなり新たな人材を試合で使うのは稀。中国戦で高井幸大(川崎フロンターレ)をピッチに送り出してはいるものの、それも大量リードという安心材料があったからだ。9月シリーズで細谷、望月ヘンリー海輝(町田)が2戦続けてベンチ外になったのを見ても、新戦力にとってはなかなか厳しい環境というしかない。
大橋は上田綺世(フェイエノールト)、小川航基(NECナイメンヘン)という1トップ陣との熾烈な競争が待ち受けている。瀬古もコアメンバーの谷口彰悟(シント=トロイデン)、板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(ユニオン・サン=ジロワーズ)らにアクシデントが起きない限り、出番を得るのは難しそうだ。
藤田は森保監督も前々から呼びたいと熱望していたはずだが、遠藤航(リバプール)、守田英正(スポルティング)、田中碧(リーズ・ユナイテッド)という鉄板の3人がいる。シャドウとボランチ兼務の鎌田大地(クリスタル・パレス)もいて、競争の激しさは大橋や瀬古を上回るものがありそうだ。
4バックで唯一手薄な左SBには、長友の存在が鍵か
それだけ森保監督のコアメンバーに対する信頼は絶対的。2022年カタールW杯組の遠藤や伊東純也(スタッド・ランス)、守田、南野拓実(ASモナコ)、三笘薫(ブライトン)、堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)といった面々は指揮官にとって不可欠な存在と言っていい。今回も彼らを2戦でうまく使い分けながら、連勝街道を驀進していく構えだ。
「勝っている時はチームを変えない」という定石通り、何らかのアクシデントがない限りは、2試合ともに中国・バーレーン2連戦に出たメンバーが軸を担うはず。手堅く勝って早く本大会切符を掴むのがベストなシナリオだ。
今回、1つ変化があると見られるのは、6月シリーズから4試合連続ベンチ外になっている38歳の大ベテラン・長友佑都(FC東京)の扱い。4バックの左サイドバック(SB)ができる伊藤洋輝と中山が揃って不在となるため、彼がベンチ入りする確率が高まっているのである。
もちろん、森保監督は10月シリーズも3-4-2-1布陣をベースにすると目されるが、相手の出方や状況によっては4バックへのシフトもないとは言い切れない。右SBには菅原由勢(サウサンプトン)という確固たる人材がいて、望月も控えているが、左SBは本当に手薄。菅原を左に回す、あるいは東京五輪の頃にこの位置を担っていた旗手怜央(セルティック)を据えるという策もあり得るが、勝負の懸かったこの重要シリーズでリスクは冒せない。そこで長友の重要性が増してくるのだ。
本人はここまでベテランらしく練習から大声を出して周りを盛り上げ、試合中にはコーチと見間違えるような指示を出している。が、「自分もまだまだ世界で戦える」というところを見せる気満々だ。過去4度の大舞台を主力として経験してきた選手が、このままベンチ外で居続けるというのは、プライドが許さない部分もあるに違いない。
「日の丸をつけた長友の雄姿を久しぶりに見たい」と熱望するサポーターも少なくないはず。その人々に応えられるだけのパフォーマンスを期待したいが、長友がうまくピッチに立てる環境を森保監督や選手たちに作ってほしい。年長者も若手も含め、多くの選手が最終予選を経験し、勝ちながら選手層を引き上げていくような展開になれば最高だ。
とにかく今は鬼門サウジと決戦にフォーカスすることが先決だ。酷暑のジッダでいかにして環境適応し、完全アウェーを乗り越えるのか。チーム一丸となって苦境を打開してもらいたい。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。