「午後は4~5時間勉強」 町田ロングスローの使い手が弁護士を目指して司法試験に備える理由【インタビュー】

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】

林幸多郎はプロ生活を過ごすとともに司法試験に向けた勉強にも注力

 J2リーグを制して初のJ1昇格を果たしたFC町田ゼルビアは今季、J1の舞台でも快進撃を見せている。開幕4節を終えたばかりだが、3勝1分で全20チームのトップに立っているのだ。そのチームに新加入したDF林幸多郎は、左サイドバックとして開幕4試合にフル出場している。

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 プロになって2年目の林は、圧倒的な運動量で左サイドを制圧するサッカー選手だが、同時に弁護士を目指して司法試験の勉強をしていることでも知られている。サッカー選手は、比較的に自由な時間がある仕事だ。だが、林はクラブの公式サイトの「最近の悩みは何ですか?」という問いにも、「1日の時間が足りない」と答えるように多忙な生活を過ごしている。

 どのような生活を過ごしているのかを聞くと、林は「勉強はしていますね」と言い、「ほかのサッカー選手がどう過ごしているか、僕も知らないので分からないのですが、練習とかケアとか、いろいろやるべきことをやって、暇な時間は勉強をしているというだけです。練習しかやることがない日であれば、午後は4時間、5時間くらいは勉強をしている感じですね」と、超難関の国家資格である司法試験に向けた準備を進めていることを語った。

 司法試験は、あくまでセカンドキャリアを意識したもの。サッカー選手は一部の例外を除き、30代後半になれば、ほとんどの者が引退をする。林がサッカー選手として上を目指していることは、オフに横浜FCから町田に移籍した事実を見ても、理解ができるだろう。

 昨季、大卒ルーキーだった林は、横浜FCで左ウイングバックとしてポジションを掴み、リーグ戦29試合2得点をマーク。プロ1年目で好スタートを切ったと言える。だが、チームはJ1で最下位になり、J2に降格した。そんな林に町田からのオファーが届いたのは、「年末で(移籍か残留か)考える時間もほとんどなかった」という。

 サガン鳥栖U-18、明治大でキャプテンを務めてきた男は、チームに対する責任感も強い。それでも最終的には、新天地を求めることにした。

「昨年、J1でプレーさせてもらって、『もう一回J1のチームでまたプレーできるチャンスをいただけた』『チャレンジしたい』という気持ちがありました。ただ、プロ1年目で横浜FCを降格させてしまっていたので、すごく葛藤はあって『移籍していいのかな』という迷いもあったんですけど、いろんな人に相談して移籍を決めた感じです」

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】

林のハードワークの原点は鳥栖の下部組織で形成

 ちなみに、町田はロングスローを用いることでも知られている。今季、左サイドからロングスローを入れている林だが、「ユースの時とかも負けている時とかは投げていましたけど、そんなに頻繁にはやっていませんでした。ロングスローを生かせるなと思ったというよりは、町田に行くとなったら『ロングスローは投げなきゃいけないな』っていう感覚でした」と、ロングスローを積極的に用いていることは、移籍を後押しすることにはならなかったと笑った。

 ハードワークが求められる町田のスタイルを「自分に合っていると思っていた」という林のプレーの原点は、サガン鳥栖の下部組織である鳥栖U-15、鳥栖U-18での時期に形成されたという。

「やっぱり鳥栖のチームスタイルが、すごくハードワークを大事にしているチームだったので、素走りとかもたくさんありました。そのJユースっぽくない良さがあったと思います。今は町田のヘッドコーチの金明輝さんが監督をされてから、トップチームと育成のつながりをすごく大事にしていたと思います。育成の選手がトップに上がってプレーするためには、統一したサッカーをしないといけないという考えが多分クラブにあったのだと思います」

 鳥栖の下部組織時代に無尽蔵のスタミナを身につけた林は、明治大を経て、2023年にプロサッカー選手になる。

 横浜FCでは、サンフレッチェ広島戦、横浜F・マリノス戦と上位争いをしていた相手からゴールも挙げた。だが、林はガンガン攻め上がっていくタイプの攻撃的サイドバックではない。「もちろんサッカー自体は攻撃のほうが楽しいとは思います。でも、自分が何をしたいかというよりは、チームが何を求めているかを大事にしている」と、フォア・ザ・チームが最優先だという。

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】

林が考える自分の強みは「普通は嫌がるようなことを淡々とやれる」

 サッカー選手には理想の選手像を持つ選手も少なくないが、林にはそれがない。

「自分がなりたい選手像というよりかは、どうしたらよりチームのためになるかを大事にしています。『こういうプレーをしたい』とかはなくて、どうプレーするかは、ゲーム中の相手の立ち位置とか、そういう部分で全部変わるんです。もちろん上手くなりたいとか、そういう欲はありますけどね」

 チームの中で、どれだけ自分が貢献できているかを重視する林にとって、周囲との連係は重要になる。そのため、同じチームメイトたちがどういうプレーを得意としているか、何を苦手としているかは、常に意識している。少し先の話になるが、今後、町田にはMF平河悠やFW藤尾翔太がU-23日本代表の活動のため、クラブを離れる可能性がある。この時期をどう乗り越えていくかは、チームの総力が問われることになる。

 それでも平河と左サイドでコンビを組んでいる林は「札幌戦では、(藤本)一輝さんとサイドを組むこともありましたし、ナ・サンホ選手とも開幕戦のガンバ大阪戦やキャンプ期間でも一緒にやりました。だから全然、気にしていません。ウイングの選手には、それぞれ得意なプレーがありますが、それに合わせて僕がやることを変えればいい感じで、その整理はできているので難しくはないかなと思います」と、自信を見せた。

 サイドハーフに入る選手に応じて、林がどのようにプレーを変えているかは、その時の注目ポイントの1つだろう。

 自身の強みを聞くと林は、「普通は嫌がるようなことを淡々とやれるのはたぶん、自分の強みですね。自分のできることとできないことを客観視して、分析してというところはすごく大事にしています。できないことを積み重ねていくことが、すごく大事かなと思っています。あとは、能力的にできないこともあるじゃないですか。例えば身長が高いとか、足が速いとか、そういう部分はなかなか差を埋められません。じゃあ、その差を何で補うかというのは考えますね」と、説明した。

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:徳原隆元】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:徳原隆元】

今後の注目点は「実直にひたむきに頑張る姿」

 チームを最優先に考える点は、ロングスローの場面でも見られている。Jリーグのスタジアムでは、ボールを滑らせるために試合前などに水を撒くことが多い。スローインをする際、ボールが濡れていて滑ることがあるため、ロングスローを投げる選手の多くはボールを拭く。だが、林はほとんどボールを拭かずにゴール前へ長距離のボールを放り込んでいる。「タオルを使って拭いたら、審判への印象が良くないかなと思って。これまであまり試合の日には雨も降っていなかったですし、遅延行為として取られる可能性も全然あり得るので」と言う。林自身が警告を受けることもだが、チーム全体の印象が悪くならないことも気遣っているのだ。

 最後にシーズン再開後の注目点を聞いた。

「選手1人1人が色気づかずというか、本当に実直にひたむきに頑張る姿は、やっぱり本当に見ている人たちに、いろんな影響を与えると思っています。そういう部分に注目して見てほしいです」

 全員がハードワークして、チームのために戦っている町田に、まさにうってつけの存在だと言える林。誰よりも「色気づかず」に、チームのために戦う「26番」にリーグ戦再開後にも、ぜひ注目していただきたい。

[プロフィール]
林幸多郎(はやし・こうたろう)/2000年11月16日生まれ、佐賀県出身。明治大―横浜FC―町田。J1通算33試合・2得点。90分間ハードワークできる運動量が特徴。サイドバックだけでなく、中盤などもこなせるポリナレント性を兼ね備える。現役生活の中で、司法試験受験を視野に入れる文武両道ぶりでも知られる。

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