なでしこジャパンの消極的パス回しに日本代表OBが冷静な目 「レギュレーションに合わせて戦うことは普通」【見解】

なでしこジャパンのパス回しに日本代表OBが見解【写真:ロイター】
なでしこジャパンのパス回しに日本代表OBが見解【写真:ロイター】

【専門家の目|栗原勇蔵】ロシアW杯のGLポーランド戦を彷彿させる展開

 なでしこジャパン(日本女子代表)は、10月26日に行われたパリ五輪アジア2次予選第2戦のウズベキスタン戦(2-0)で2点先行後にボールを保持し、消極的な戦いに徹した展開に海外メディアからは厳しい声が上がった。元日本代表DF栗原勇蔵氏は、選手の目線から「正直、仕方ない」と見解を述べた。

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 日本は前半10分、MF遠藤純がコーナーキックから相手GKの頭越し蹴り込んだボールをファーサイドでDF南萌華が合わせて先制。同15分には左サイドからペナルティーエリア付近で細かくパスをつなぐと、最後はFW千葉玲海菜がシュートを決めて2-0と序盤でリードを奪った。

 早々と優位な展開に持ち込んだ日本。しかし、ここからボールを圧倒的にキープし、無理にペナルティーエリア内まで攻め込まず時間を消費してハーフタイムへ。後半も同様の流れとなり、2点リード後の75分間、パスを回し続けたことでボール支配率は91%対9%という異例のスタッツとなった。

 この試合展開となった背景には、予選のレギュレーションが関係していた可能性が指摘されている。2次予選は3組に12チームが分かれて戦い、各組1位と2位のうち最も成績の良かった1チームが最終予選に進む。日本が1位で最終予選に進出した場合、仮にA組から2チームが勝ち上がると、1位突破が有力のオーストラリアと対戦する。

 一方でC組から2チーム進出となり、日本が1位突破となれば韓国、北朝鮮、中国、タイが同居するB組の1位と対戦。日本は女子W杯で4強のオーストラリアと対戦するシチュエーションを回避すべく、ウズベキスタンとの一戦では2点差をつけた時点で積極的にゴールを目指さなかった可能性があったとされている。

 日本の戦いに付き合う形となったウズベキスタンの本田美登里監督は「ゴールの統計は次のラウンドに進むために非常に重要であり、この側面から考慮した」と説明していた。

 日本代表OB栗原氏は、「西野(朗)監督が率いたロシア・ワールドカップ(W杯)の時もそうでしたけど、なんとも難しい問題ですね」と切り出した。

栗原氏は攻めることの「リスク」を指摘

 2018年のロシアW杯グループリーグ第3戦ポーランド戦(0-1)、1勝1分の日本とセネガルが引き分け以上で決勝トーナメント進出を勝ち獲れる状況でスタートした。ともに「0-1」のまま終われば、イエローカード数の差で日本が2位となるなかで、後半37分にMF長谷部誠が伝令役を担って投入され、日本は攻めずに自陣でのボール回しを開始。この戦術には日本サポーターからもブーイングが上がり、開催国ロシアのスポーツ紙「スポルト・エクスプレス」は「日本の恥だ」と非難。英公共放送「BBC」は「不可解な結末でW杯を汚した」、英紙「タイムズ」は「消極的な作戦で日本は上手くいった」と伝えるなど、反響を呼んだ。

 栗原氏は、「お互いの条件が揃ってしまうことが稀にありますけど、ルール的には仕方ないと思います」と語る。

「ルヴァンカップのグループリーグとか、可能性がありますよね。あからさまな形はないですけど、引き分け以上とか1点差負けとか条件ある時は、それに合わせて戦うことは普通だと思います。正直、選手としては仕方ないところでしょう。下手に攻めてやられるリスクもありますからね」

 選手を含めた現場の立場からすれば、複雑な心境ながら最終的にパリ五輪への切符を手にするためには仕方ない部分がある、と栗原氏は説いていた。

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栗原勇蔵

くりはら・ゆうぞう/1983年生まれ、神奈川県出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2002年にトップ昇格。元日本代表DF松田直樹、同DF中澤佑二の下でセンターバックとしての能力を磨くと、プロ5年目の06年から出場機会を増やし最終ラインに欠かせない選手へと成長した。日本代表としても活躍し、20試合3得点を記録。横浜FM一筋で18シーズンを過ごし、19年限りで現役を引退した。現在は横浜FMの「クラブシップ・キャプテン」として活動している。

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